第二十八話

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「毅尚さん?」  気がつけば、深く考え込んだまま動かなくなった毅尚を、きよが心配そうに見上げていた。 「俺、ちょっと行ってくる」 「仕事に?」 「いや、蔦屋様のところ」 「え?」 「きよちゃんは心配しないで、とにかく長屋のみんなに光楽は俺じゃないからってよく言っておいて!」 「わかった」  頷くきよに背をむけ走り出した毅尚は、絵を依頼された時の、蔦谷との会話を思い出す。 『なあ毅尚、光楽の親友だったお前に、是非頼みたいことがあるんだ。光楽が描くはずだった花魁の絵を、お前が光楽の代わりに描いてくれないか?死んだ光楽も、お前が引き継いでくれれば、きっと喜ぶと思うんだ』 『あ、はい…でも、俺でいいんんですか?』 『もちろん。ただ一つだけ、とても言いにくいんだが条件がある。今回絵を依頼してきた玉楼の女将は光楽の絵が大好きでな、なるべく光楽の絵に似せて描いてほしい。光楽の親友として、光楽の絵を愛した人々のためにも、光楽の最後の仕事を、どうしてもお前に引き受けてほしいんだ。』 『…はい、僕でよければ』  蔦屋に聞かなくてはいけないことが沢山ある。例えそれがどんな結果を生み出すとしても、目を逸らすわけにはいかない。光楽の親友として、毅尚はただ真実を知りたかった。
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