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第三話
昼4ツ(午前10時)廓の遅い朝が始まる。座敷の掃除は禿達の仕事だが、佐知が様子を見に行くと、お凛の姿が見当たらない。
「お凛!お凛!まったくあの子は、掃除さぼってどこ行ってるんだか」
佐知がお凛を呼びながら下へ降りていくと、丁度起きてきたばかりの源一郎と居合わせた。
「どうかしたのか?」
「座敷の箒がけを頼んでおいたってのに、お凛ときたらまたどこかへ消えちまって。最近逃げなくなったと思って油断してたらこのざまですよ」
「お凛だったらさっき梅と一緒に廊下を雑巾がけしてたぞ」
「はあ?ったく、あの二人同じところへやると話してばかりでろくに仕事しないからわざと別々にしたのに!」
怒りも露わにお凛の元へ向かおうとする佐知の肩を、源一郎が宥めるように叩く。
「まあ待てや、お凛も前に比べたら大分聞き分けよくなってきたじゃねーか。お凛には俺がきつく言っておくから、上の座敷の掃除は他の禿に頼んでやってくれねーか」
めずらしくお凛をかばう源一郎を訝しげな顔で見上げながらも、佐知は頷き去って行った。
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