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第三十三話
(これは夢か?)
目の前には父慎一郎、弟慎之介。さらに、今や江戸幕府で絶大な権勢を誇る老中間部忠義を始め、錚々たる顔ぶれの男達が厳粛な面持ちで一堂に座し、海の横には、純白の着物に身を包ん忠義の愛娘華子が慎ましやかに座っている。
「では海様、華子様、三々九度の盃を」
仲人の言葉に、まるで他人事の芝居でも見ているような心地だった海は、まじまじと華子の横顔を見つめた。盃の酒で唇を濡らし、長い睫毛に縁取られた大きな瞳を伏せた華子の顔は目を瞠るほど美しく、よくできた人形のようだ。だが、海の視線に気がつき、自分を見つめ返すその目には、決して作り物ではない強い意志が宿っていた。
『海様!』
あの時もそう。結局自分はこの眼差しに、抗うことができなかったのだ。
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