Ⅰ 告白

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 今日の食事代は、父の会社の経費として処理されるのだろう。こういうとき、家が代々続く自営業というのはなかなか便利だ。たとえ、小規模な上、跡継ぎは兄と決まっていても。  恭二の視線に気づいて、静香が微笑んだ。  東京の大学で、経営学部の同じ研究室のメンバーとして出会った彼女もまた、自営業の家庭で育っていた。しかも、偶然にも恭二の実家の隣の県で。  静香の両親は中堅どころの食品会社を経営しており、恭二は一人娘の彼女と結婚した後は、婿養子として会社を継ぐ約束になっている。今日の鈴木・佐藤両家の顔合わせの食事会も、その点を確認するのが目的のひとつだった。  正直なところ、慣れ親しんだ名字を変えるのは複雑だが、父の会社では既に、兄に加えて姉の夫も副社長の座に就いている。地元密着型の小さな企業の経営陣に、もはや自分の入る余地などないことを思えば、より規模の大きい静香の両親の会社を継ぐことは、十分魅力的だった。  もちろん彼女も、そういった恭二の側の事情は了承している。合理的な感覚が似ているのも、彼女に惹かれた一因かもしれない。  だが、なにより大きいのは。
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