希う

1/7
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

希う

とたとたとた…。 朝早く、誰もいない校舎に私の足音が響く。 窓の外はまだ薄暗い。淡く青に染まる廊下が非現実感を醸し出していた。 私のクラスに着く。地窓をガラリと開けて中に入る。当然だが、誰もいない。 私は幾つもの机の間をふらふらと彷徨いながら、目的の場所に向かう。 ──祐介くん。 憧れの人の机の前で歩みを止める。私はそこに、絵の具で黒く染め上げられた百合の花をそっと置いた。非現実が加速する。 薄暗がりの教室で私は静かに言った。 「──黒き百合にて恋、願う」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!