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希う
とたとたとた…。
朝早く、誰もいない校舎に私の足音が響く。
窓の外はまだ薄暗い。淡く青に染まる廊下が非現実感を醸し出していた。
私のクラスに着く。地窓をガラリと開けて中に入る。当然だが、誰もいない。
私は幾つもの机の間をふらふらと彷徨いながら、目的の場所に向かう。
──祐介くん。
憧れの人の机の前で歩みを止める。私はそこに、絵の具で黒く染め上げられた百合の花をそっと置いた。非現実が加速する。
薄暗がりの教室で私は静かに言った。
「──黒き百合にて恋、願う」
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