足りないもの

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「お母さん、ほんとにごめんなさい。」 謝る晴己の頭を、母は優しくなでた。 「無事で本当によかった。お父さんに電話してくるね。お父さんも、晴己のこと本当に心配してたのよ。仕事前と後で病院に来て、仕事のの合間もこまめに電話してきて。」  母は笑いながら、そういうと部屋を出た。   普段から、両親の愛を受けていなかったわけではない。むしろ、23歳にもなってアイドルの卵を続けている息子を応援してくれる両親だなんてなんとも温かく優しい両親である。しかし、今回の事故を受けて晴己は、両親がこんなにも自分を心配してくれていた事実を知り胸が熱くなった。  もちろん晴己を心から心配していたのは、両親だけではなかった。 晴己の事故を知った事務所の同期や研修生の後輩たち、そして町田社長も多忙なスケジュールの合間で病院に駆けつけていた。また、晴己の携帯には、たくさんの友人たち、そして事務所の仲間たちからのメッセージが届いていた。  「誕生日おめでとう。復帰待ってるぞ。」  「また同じ舞台にたとう。」  「明るい晴己さんがいなきゃつまらないです。」  それだけではない。  晴己の枕元には、大きな紙袋が3つ置いてあった。  晴己が交通事故に遭ったことはニュースに取り上げられ、それを知ったファンから、何千通もの手紙が届いていたのだ。  「晴己君の存在がわたしの元気の源です。早く元気になってください。」  「晴己君の笑顔が早く見たいです。」  「晴己君のデビューをいつまでも待っています。」  たくさんの愛のこもったメッセージ。  晴己の目から、涙がこぼれる。  俺は、これまで自分のことしか考えていなかった。 「有名になりたい。人気者になりたい。」  その一心でアイドルとしての仕事と向き合ってきた。 でも、そんな俺のことをこんなにもたくさんの人たちが、想ってくれている。応援してくれている。愛してくれている。 それは決して当たり前のことじゃない。      
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