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もともと器用で、吸収力のある晴己は、日々のレッスンを受けて、アイドルとしての素質もメキメキと伸ばしていった。晴己は、人気者であることの心地良さを知っている。「愛されたい」「たくさんの人気を得たい」そういった気持ちが晴己の原動力になっていた。
容姿端麗、歌唱力、リズム感、ダンスの魅せ方、そして明るい性格、アイドルとしての要素は完璧なように思われた。一緒に練習し共に上を目指す多くの仲間たちから、その多才さを羨ましがられ、晴己は天狗になっているところもあった。
しかし、事務所の社長である町田は、なかなか晴己をデビューへ導こうとはしなかった。それどころか、グループへも所属できないまま、晴己は入所10年を迎えた。12歳のころに、一緒にオーディションを受け同期入所したメンバーは次々とグループを結成しデビューしていく。それどころか、自分より年下の後輩たちでさえ、ひとり、ふたりと徐々に自分を追い抜いてデビューを果たしていく。
「なんでだよ・・・」
晴己には自分が周囲のようにデビューできない理由が全く理解できなかった。
これまで大きな失敗や苦痛を経験せず、何事も卒なくこなせてきた。しかしアイドルとしての成功の壁だけは晴己の前に高く広くそびえ立った。
同級生や同期で研修生として残っていた人たちは、自分はこの世界には向いていないと、芸能界でやっていくことを諦め、徐々に減っていく。だが、これまで妥協を経験したことのない晴己にとって、アイドルとしての成功の夢を諦めるという選択肢はなかった。そして実のところをいえば、12歳からアイドルとしての道を歩むことだけを考えてきた晴己にとって、他にやってみたいこともなければ、自分にできそうなことも考えられないというのも本音だった。
22歳でまだ研修生をしているだなんて入所したてのころの晴己はまったく想像していなかった。
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