アイドルへの道

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 夏。何もしていなくても汗が滴る暑さの中、晴己は今日も真剣にダンスレッスンに取り組んだ。晴己は、8月26日で23歳の誕生日を迎える。そして、8月26日は、新たな新グループの発表があることが町田社長から、研修生たちに告げられていた。晴己は次こそ次のステップに進みたいと意気込んでいた。 町田社長は、社長自ら、研修生たちの練習姿勢を見るためにレッスンスタジオで練習風景をよく眺めている。晴己は、アピールするように必死でレッスンを受けた。  そして8月26日。晴己は真剣な面持ちで事務所へ向かった。 現在に研修生数は、200人程度。晴己はその中で、気づけば最年長の存在となっていた。  もし今日のグループ発表で、自分の名前が呼ばれなかったら、町田社長に、理由を聞こう。晴己はそう決意していた。これまで、晴己は自分がずっと研修生の一員である理由を町田社長に直接訪ねたことはなかった。仲間たちと話すときに、仲間に聞いてみたことはあったが、全員一致で 「晴己はほんとに優秀だよ。俺たちにも理由は分からない」 と口をそろえて答える。  町田社長に嫌われているのかもしれないと晴己は考えたりもしたが、晴己がいないところで、町田社長はいつも晴己のことを「期待の星」と話しているとほかの研修生から聞いた。  町田社長に、自分から理由を聞くことは、自分をグループに入れろと社長に直談判しているようだと思ったし、晴己は町田社長自ら、自分のことを認めてグループに加入させてほしいと思っていた。だからこれまで、晴己は、町田社長にその理由を聞いてこなかったのだ。  しかし、もう23歳にもなる。ついにこの間、デビューを果たした後輩グループのバックダンサーとして舞台に立つことになった時に、晴己は初めて悔しさで自宅で一人涙した。入所して11年、人気になりたくて、有名になりたくて必死でやってきた。もちろん、研修生として絶大な人気を得られていることは確かだし、後輩のバックダンサーとして舞台に出た時だって、デビューしている後輩に負けないくらいの人数の自分のファンたちが見に来てくれていた。だが、ただ、人気を得るだけじゃだめだ、デビューしたい。それがいつしか晴己の夢となっていた。今日だめなら、しっかり理由を聞こう。町田社長から理由を聞いて、もし自分にダメなところがあるなら改善しよう。晴己はそう決意していた。  もちろん今日、グループ発表で名前が呼ばれることを晴己は一番に願っていた。
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