足りないもの

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 東京ドーム。きらきら光る無数のペンライト。俺の名前が大きく書かれたうちわ。そして会場全体に響き渡る歓声と名前を叫ぶファンたちの声。強すぎると感じるほどの証明が俺を照らす。あー、なんて幸せなんだ。俺が見たかったのは、この景色だ。俺が聞きたかったのは、この声だ。目の前のその輝かしくきらびやかで眩しい世界に目が潤む。  _____また夢だ、自分でもわかってるよ。_____ 「晴己、晴己」  誰かが呼ぶ声。聞きなれた温かい声だ。  ゆっくりと目を開く。  「お母さん?ここは・・・。」  晴己の頬に、母の目からこぼれた温かい涙がほろりと落ちた。  「よかった、大丈夫?分かる?晴己。あなた2日間眠ってたのよ。」  母は、嗚咽を漏らしながら涙している。  ああそうだ、俺あのとき、車とぶつかって。  「誕生日に交通事故なんて信じられない。無事でよかった。」  晴己は、自分の手を強く握りしめる母の手を握り返した。  「ごめんね。」  「先生、呼んでくる。」  母は、涙を拭いて笑顔を見せるとその場を離れた。  だんだん意識がはっきりしてくる。それと同時にずきずきと全身が痛む。  思うように体を動かせない。  母が、医師とともに戻ってくる。  「意識が無事に戻ってよかったよ。痛むよね。車にはねられて全身を強打したんだ。この後もいくつか検査をするけれど、今までに行った検査では脳には特に大きな異常所見はないし、何ヶ月かリハビリを頑張れば、きっと元通りの生活が送れるようになるよ。若いからきっと、リハビリの進みも早いだろう。」  「ありがとうございます。良かった本当に。」  母が涙声で医師にお礼を言う。  晴己が母の涙を見たのは初めてだった。  母はいつだって明るかった。晴己が何度、事務所のグループメンバー選抜に落ちても、  「晴己ならきっとやれるわよ、大丈夫よ。」  と明るく声をかけてくれた。  毎日レッスンで疲れている晴己のためにおいしいご飯を作って温かいお風呂を準備して、 「いつか恩返ししてよね。」  と飛び切りの笑顔で迎えてくれていた。  そんな母がぼろぼろと泣いている。  
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