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テニスコート程の広さ。その左側に大きな円形のテーブルが置かれ、奥には壁掛けモニターが設置されていた。
テーブルを囲むようにして置かれた椅子には6人がそれぞれ座っていて、一通り顔を見ようと見渡していると、金髪ショートカットの女性と目が合ってしまった。女性は組んでいた足を組み直すと口を開いた。
「その子で最後?」
少し怒気の込もった口調に肩を揺らす。
それに気付いた赤条さんは優しく頭を撫でてきて、まるで母親に安心させられるようで、初対面なのに不思議な感じだ。
「一応廊下にある部屋はこの子で最後だった。…つーか、もっとラフな言い方ないのかよ。」
「誘拐されてラフも何もないわよ。」
赤条さんは「はぁ」と溜息をつき、私に椅子に座るよう促した。
改めてここに居る人たちを見回す。
女性が3人、男性が4人。
知り合いでもない私たちが何故集まっているのだろう。けど、もしかしたら忘れているだけで接点があるかもしれない。
そう思うがやはりそんなのは見当もつかない。
糸の張られた沈黙を最初に破ったのはいかにも優しそうな緑髪の女性だった。
「取り敢えず名前だけでも自己紹介しません?」
確かに名前を知らないのでは会話をしようにもやりづらい。全員がそれぞれ肯定の意を示し、発案者から時計回りに自己紹介することになった。
「私は緑沢カオルコ。上でも下でも呼びやすい方で構いません。」
物腰柔らかく微笑み、囚われの身なのにこっちまでつられて笑顔になりそうだ。緑沢さんは言い終わると隣の人に向き直った。
「えと、橙野マサチカです…」
先程苛立ちを顕にしていた女の人とは対照的に俯き呟いた。…私と年が近いのかな。華奢な橙野くんはその身体を震わせるが、持っている本はぎゅっと頑なに抱いていた。
端々は擦れ、元々黒だったのだろうが色が落ちてグレーになりつつある。随分古そうなその本は橙野くんの私物だろうか。私の部屋には本棚はなかったけど、部屋によっては置いている物が違うのかもしれない。…気になるけど今は自己紹介を済ませてしまおう。私は目線を隣の茶髪の女性に移した。
「茶敷マオ。次どうぞ。」
「あ、はい。」
一寸隙もなく私の番が来た。あまりにも直ぐ番が回ってきて、言葉に詰まる。
そうしていると隣に座る赤条さんが「ゆっくりでいいよ、名前教えて?」と優しく諭してくれた。その言葉に頭を落ち着かせ、口を開く。
「灰永ケイトです。呼び方は問いません。」
言い終わるとまた頭を撫でてくれた大きな手。まるでお兄ちゃんのようで、赤の他人なのに安心する。
そのまま赤条さんは撫でながら自己紹介を始めた。
「俺は赤条リョウスケ、さん付けとかくすぐったいからフランクに宜しくな。」
屈託のない笑顔を浮かべ青髪の男性に順番を回す。
「…青門トウヤ。」
言い終わるや否や目を閉じ、寝ようとしている。…この状況で睡眠?青門さんの行動を不審に思ったがそれを悩む暇もなく自己紹介は続いていく。
「紫滝マモルと言います、よろしくお願いしますね。」
話している人の方を向いているから当たり前と言えば当たり前だけど、私に向かって言われたような…、非日常の状況で自意識過剰になり過ぎているだけか。けれど、紫滝くんの笑顔は何処か赤条さんとは違って見えた。
「私で最後ね。黄久瀬ユウ、これで名前は分かった訳だから早速話を始めましょ。」
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