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月の下で。
Ⅴ
「上弦の月か。今夜の月はずっと綺麗だね」
「えっ?」
セシルは突然掛けられた声に驚き、振り向いた。そこには三十歳前後の、とてもハンサムな男性が立っていた。
彼から香ってくるのは香水だろうか。ジャスミンの匂いがする。けれどその匂いは貴婦人たちのような自己主張するものではない。とても柔らかで心地好くセシルの鼻孔を掠めた。
男性の軽やかな足取りが近づく。彼が近づいてくるほどに、洗練された彼の容姿がはっきり見て取れた。
男性の身長はとても高い。白のチュニックにジレ。それから襟元に金糸の装飾を施された闇色のジュストコールとキュロットが彼の身体のラインを引き締め、引き立てている。襟足までのプラチナブロンドが印象的だった。
「もしかしてお邪魔だったかな?」
その声はまるでベルベットのように優しい。きっと心根の優しい人なのだとセシルは思った。現に、悪魔のような容姿をしているセシルを異質な目で見ていないのが何よりの証拠だ。
「いえ、そんな……」
セシルは首を振ると、男性が微笑を浮かべた。
「母はこういう華やかな場所が好きでね、無理矢理連れて来られたんだ。ぼくはどちらかというと、こういう場所があまり好きではなくてね。どうにか隠れる場所がないかと探していたところだったんだよ」
「そう、なんですか?」
見るからに紳士な彼はこういった華やかな舞台が苦手なようには見えない。セシルは小首を傾げた。
「そうなんだよ」
疑うセシルに、彼は大きく頷いてみせた。
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