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貴方を選んだ理由
最愛のリアム様へ
五年前のイギリスの地にて、青空の下で多くの者がいる中で、飛び抜けて目に止まった貴方に一目惚れしました
風に揺れ艶めく黒髪に、鍛え抜かれた身体の引き締まった筋肉
そして……その丸み帯びたお尻は誰よりも触りたくて……げふんげふん
『 って、ダメダメ!こんな手紙渡せるわけない!! 』
現在、私はイギリスに向かう飛行機に乗っていた
五年前の社員旅行にて一目惚れをした
凛々しくて美形なあの御方にもう一度会いたくて
分からなかった英語を独学で勉強し、
その辺のオフィス勤めをしてるOLの給料で旅行費を貯めて
やっと、五年後越しに会いに行ける
余りにも嬉しくて、何度も何度も告白をする為の手紙を書いてるのだけど
どうしても上手く思いを伝えられない
いっそのこと、直接口にした方がいいんじゃないかって思うほどに、小さな胸は高鳴っていた
飛行機を下りて、バスに乗り、二泊三日の旅行は殆ど、行った先で決めることになると思う
なんせ、五年前の記憶
曖昧過ぎて彼の住んでいる場所が分からないからだ
もしかしたら、もうこの地にはいないかもしれない
そう思うけど、何故か会いたくなって事前に調べた沢山の雑誌の切り抜きを纏めたノートを持って手当たり次第に聞いていく
『 あの、すみません。ちょっといいですか? 』
「 おや?どうしたんだい? 」
やった言葉は伝わるようで、五年間の勉強の成果がある!
一時間ほど揺れたバスを下りて、最初に出会った周辺で聞き込む事にした
よく知っていそうなタクシーの運転手さんがいいと思い、抱いていたノートを広げてリアム様の写真へと指を向ける
『 この方を探していて、ご存じですか?五年前にこの広間でパレードに参加していたと思うんですが…… 』
「 毎年行われるパレードだね?でも、一人だけを見付けるのは難しいなぁ 」
『 やっぱりそうですよね…… 』
「 あ、でも……彼等がいる場所は知っているから其処に行って聞いてみたらいいんじゃないだろうか? 」
なんと、一番最初に聞いた人がまさかのパレードを参加していた他のメンバーも知ってると!
これはなんと言う偶然!
嬉しくて軽く跳び跳ねてしまえば、気を落ち着かせて聞く
『 其処まではどうやって行けばいいですか? 』
「 鉄道に乗るといい。此処からなら三時間で着くだろうよ 」
『 分かりました、色々とありがとうございます 』
行く方向も、乗り物さえ分ければ後は会いに行くだけ
初日から楽しみだと喜んで鉄道に乗ることにした
会いに行くだけの旅だけど、それでもこうやって風景を眺める事が出来たり
社員旅行とは違った楽しみに一人で来て良かったと改めて思う
行く先々で色んな人に聞いて、そしてあのタクシーの運転手さんが言ってた場所へと昼の三時を過ぎて辿り着いた
朝の便から下りてきたのに、もうこんな時間だと思うけれど初日で会いに行けるなら
残りの時間は、毎日通って会おうって計画すら出来た
だから、何一つ苦では無かった
『 すみません、誰かいませんか? 』
古びた扉の前に立ち、何度かノックをするも返事はない
あれ?此処じゃ無いんだろうか、思って一歩下がれば扉は開く
「 えっ、おや?どなた? 」
『 こんにちは!初めまして、急にすみません…… 』
「 初めまして 」
出てきたのは年寄りのおばさんで、握手をすれば
早速場所が合ってるか問い掛けてみる事にした
『 あの、この方を探していて…此処に所属していたって聞いたんですが 』
「 あー、うんうん。二年前まで確かにウチに居たわ!よくこんな古いの知ってるわね? 」
『 えっと、居たってことは、此処にはいないんですか? 』
ノートを見た彼女は頷いてから、少し困った様子を見せた
会いに来たものの、二年前まで此処に居たのは確か
けれど、今は別の場所にいるようで彼女は腰に手を当てては答えてくれた
「 脚の怪我をして引退したのよ。パレードの時にね……。今は、友人と一緒に暮らしてるはずだよ 」
『 その人に、会いに行っても大丈夫ですかね? 』
「 もちろん、ただ……遠いから今から行くと夜になるかもしれないよ。私の方が貴女が会いに行くことは伝えておくわ 」
電話をかけるように片手を耳に当てた彼女に、私は頭を下げてから住所であるメモを貰って会いに行くことにした
『 ありがとうございます。会いに行ってみます 』
「 気を付けてね! 」
『 はい! 』
三十分後にやって来るバスに乗り、更に田舎の方へと向かってバスに揺られる
此処まで来るときに買っておいたサンドイッチを鞄から取り出して、軽く軽食を食べて外を眺める
『 脚の怪我……大丈夫ならいいんだけどな…… 』
二年前の怪我が悪化してなければいいな
そう思いながら、心配と不安を抱き
赤く染まる夕暮れを眺め、乗り換えていくバスに揺られ続ける
メモを頼りに居たのは良いものの、辺りはすっかり真っ暗
人通りも全くなくて、ここはどこ!?状態になる
時計の針も見えず、明かりが無くて戸惑いながら取り敢えず、バスの人から真っ直ぐ歩けば分かると言われた為に、歩いていくことにする
25歳のOLが、二十歳の頃に出会った方に会いに行くなんてどんな心境なんだろう
寧ろ、こんな暗い中を歩いていて自分が可笑しいやつって思えてきた
『 一回、ホテルにでも泊まればよかった。どうしよう、今日……泊まる場所あるかな…… 』
こんなにも人気がない場所なんて思わなくて、もう少し店があるかな?って期待したけど何もない
確かに海外って自然豊かで大地が広がってるって言うけど、広がりすぎ!!
国境でも越えそうな雰囲気に心細くなり、サンドイッチと水程度しか飲んでない為に腹の虫を鳴らす
『 はぁ、お腹空いた……というか……あ…… 』
もうそろそろ着いて、家だけでも知ってないとレストランに行くまでにお腹空いて倒れると思う
本当、この道であってる?と思い視線を上げれば明かりが灯る家を見掛けた
『 やった、取り敢えず聞いてみよ! 』
夜遅くに訪問すみません!という覚悟で、歩く脚が早くなり、少し掛け走ってから門の前へと行く
『 門……?えっ、よく見たらデカいお屋敷? 』
明かりがついてたのが一階だけだったから小さな古民家、なんて推測してたけど
目の前に行けばかなり大きなお屋敷というか邸宅みたいに見える
全貌が分からないからなんとも言えないが、取り敢えず住所さえ聞ければいいかと思い、辺りを見てチャイムのボタンを探し、そこだけ僅かに光っていた為に押す
ブザーのような嫌な音が聞こえる
相手の名前を聞くのを忘れてたと後悔しつつ待っていればインターホンの向こうから声が聞こえてきた
" 誰? "
『 あ、あの……日本からやって来た桜沢春です。此処にリアムって方が居ると聞いて…… 』
" 態々日本から?あぁ、叔母さんからの電話の子な。待っててくれ、門を開ける "
自動で開く門…こんなの凡人の私は見たことないよ
開いた門に入る勇気が入り、ごくりと生唾を飲み込んでは脚を踏み入れる
『 お邪魔します…… 』
男性の声だったけど、此処に住んでる人だろうか
若そうに聞こえたけど……
そんな事より、住所は合っていたみたいで安心した
無駄に玄関までが長い道を、半分まで入ったところで背後の門は閉まった
閉じ込められたような感覚にドキッと胸が高鳴るも、玄関の前に立ちノックをする
『 あの…… 』
直ぐに開いた玄関の扉
立っていた人物を見ると目の前には厚い胸板……
胸板!?
『 っ!? 』
「 よく来たな。言ってくれれば迎えをやるのに…… 」
『 な、なんで……脱いでるんですか……!? 』
上半身裸!というか、バスローブ一枚じゃないか!!
いいもの見れたって拝むよりそっちが気になるよ!
僅かに見上げるほど高身長の彼はダークブラウンの癖っ毛に触れ、緑色の瞳を細めて当たり前のように告げた
「 風呂上がりだからな。それで、本当に会いに来ただけか? 」
『( 自分の家だもんね )はい、リアム様に会いたくて! 』
この方と抱き締めて少しよれたノートを広げて見せれば、手に取るように持ちページを捲った
「 あぁ……全部彼奴の切り抜きだけ……。まぁ、中には入れ。明日会わせてやる。今は寝てるだろうからな 」
『 えっ?あ、じゃ……今日は帰ります 』
「 帰る? 」
ノートを持ったまま背を向けて部屋に行こうとする様子にノート返して欲しいな…って思うけど諦めた
『 はい、明日また来ます。御迷惑はかけられませんので…… 』
此処にリアム様がいるならそれでいいし、
明日も来ても大丈夫なら、もう一度来ることは悔いではない
にっこりと笑った私に、彼は玄関付近にある時計を見てから眉を寄せた
「 構わないが、この辺り…ホテル無いが何処に泊まるんだ? 」
『 えっと、野宿ですか? 』
「 俺の敷地内でか? 」
『 えっ…… 』
「 この辺り一帯は、俺の所有地になっている。暗くて分からなかっただろうが周りは何もない草原だ 」
『 ……へ? 』
あれ、文句いいながらずーとバス停から歩いてた道って全部、この人の所有地だったの?
どんだけ広い場所に住んでるの!?
「 それで、腹の虫を鳴らして君は野宿をして。風邪を引いて飢え死にでもしたいつもりか? 」
『 えぇ、いや……そんな……つもりはなくて…… 』
ホテルが無いと分かった瞬間に、腹の虫は鳴り
恥ずかしくて腹を両手で抱えれば彼は私の後ろへと行き玄関の扉を閉めた
「 敷地内で訪問客が死ぬのはごめんだ。俺も晩御飯は此れからだったから一緒に食べよう。君に分け与えるぐらいはある 」
『 そ、そんな…滅相も、ございませんよ! 』
「 好意は受け取りな、腹ペコのお嬢ちゃん? 」
『 っ!! 』
なんだこのタラシみたいな雰囲気!
ちょっと腹が立つと思う
リアム様が居なければきっと蹴ってた!
半ば強引に部屋に通されて、バスローブを着てる程度のこの人はリビングへと向かった
『 ひっろ…… 』
中央にある高価なシャンデリアに絢爛豪華な調度品の数々
けれど、一番気になったのは本棚の上やらに掛け立てられてるリアム様の写真、彫刻の物だ
『 わっ、リアム様だ! 』
「 大会のだ。君の知ってるのはパレードの時だけだろうが、実際は技術を競う方がメインだからな 」
『 やっぱり、カッコいいですね…… 』
どの角度から見ても整った顔立ちに、綺麗に靡く髪、そして引き締まって艶めいた色気のある肉体美
格好いいと改めて実感していれば、背後から眺めていた彼は近寄ってきた
「 君は…… 」
『 っ! 』
ふっと気付いた時には背後にいて、片手を戸棚に当て被さるように居たことに驚けばポニーテールにしている髪に触れ、甘く耳元で囁いてきた
「 リアムを見る瞳は恋する乙女のようだな。態々日本から五年前のパレードの写真を持ち、やって来るほど…彼に惚れているのか? 」
『 っ……端から見たら変かもしれませんが、私は…只リアム様に会いたくて来ました 』
「 本当に、俺ではなく彼? 」
本当に?何故其処まで確認するのか疑問に思い、
片手を置いていた方を何気なく見れば
リアム様の隣に立つスーツ姿の男性がいた
若いけど、紛れもなくこのバスローブ一枚を着て無駄に距離の近い男だ
『 私が、好きなのはリアム様なので……貴方の事は知りませんでした 』
「 ふはっ!そっか、残念だ。とても残念だが、気分がいい!ほら、ご飯にしよう 」
『 は、はぁ…… 』
良く分からないけど、軽く笑った彼は何処か上機嫌で広いテーブルの椅子へと座った
私は何気無く呼ばれた方に座れば、皿へと料理を寄せられる
誰が作ったか分からない、イギリスのお肉料理ばりだけど……
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