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「?先生に渡すんだろ?」
「これはおもちゃだから、先生に届けたところで処分されちゃうだけだし、クラスに回そうと思って。私はあまり男子の友達いないから持ってて」
男子どころか女子にも友達いないだろ、とは口に出さなかった。世の中には言っていいことと悪いことがあるってやつだ。
「りょーかい」
預かったカードは、折れないようにランドセルの副ポケットに入れた。夏乃はポケットにシュシュを入れている。夏乃がのんびりとしているから、俺は待っているつもりだった。ピタッと一瞬、夏乃が動きを止めた。その瞬間、俺は無表情が無表情になるのを見た。そしていきなり。
「え」
走り出した。
何が起こったのかよくわからない。ただ呆然と、小さくなっていく夏乃の背中を見ていた。きっちり2秒。ハッと正気を取り戻した俺は、全力で走り出しながら叫んだ。
「お……お前流石にそれは酷いよな!?」
何の確認をしているのか、俺自身も知らないが、とにかく息を切らせて叫んだ。が、夏乃の速さは変わらない。今度こそ完全に置いていく気である。
「アキ、時計」
珍しく、後ろを走っている俺にも聞こえるくらいの大きな声。
「なんだよ?」
ランドセルのベルトに付けられたストラップ型の時計に目を向ける。
「……げ」
そいつは、淡々と始業五分前を示していた。
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