力を示し給え

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力を示し給え

 20XX年1月XX日。セイルの村の入り口までたどり着いた俺達は、その関所の物々しさに圧倒されていた。  村をぐるりと囲うように建てられたコンクリート壁とその上には有刺鉄線、その中央に設置された見上げるほどに巨大な石の門。同じく巨大な南京錠によって閉じられているその門の手前にはコンクリートで作られた小さな長方形の建物があり、側面にはめられた鉄格子の向こうには、門番と思しき髭を蓄えた筋骨隆々な男がどっかりと椅子に腰掛けているのが見て取れる。 「行くぞ」  三人はこの村を初めて訪れるらしい。物珍しそうに巨大な門を眺めている連中に声をかけながら、オレは門番のいる建物の方へと向かう。 「すまない、入村手続きがしたいんだが」  鉄格子越しに声をかけると、何やら事務仕事をしていたらしい門番はすぐにその手を止めて建物の外へと出てきた。2メートル近くあるのではないかと思われる大男は、門の前で仁王立ちになるとオレ達に低い声で問いかけた。 「この村のルールは知っているのか?」 「ルール?」  ティアが首を傾げると、門番は険しい表情のまま説明を開始する。 「我らがセイル村は、国土を護るアイスティール自警団の本拠地である。敵襲に備えるため村の中の警備は非常に厳重であり、罠が随所にしかけてある。中に入った部外者の中には、危険な罠によって命を落とす者も少なくない。故にこの関所では、入村する部外者に対し試練を課すこととしているのだ」 「なるほど。村人を守るためというより、旅人を守るための関所なのか」 「そのとおり。今から貴様らの中で最も腕の立つ者と私で力比べをする。見事私に勝つことができれば、貴様らの一団を認め通してやろう」 「おかしな関所もあるもんだね。 人畜無害な弱い者は弾いて、強敵になるかもしれない者は喜んで招き入れるのか」 「おい」  シオンが門番に喧嘩を売るようなことを言うので反射的に睨みつける。何故こいつはわざわざ門番の機嫌を損ねることを言うのだろうか。 「なに、あくまで力比べは入村検査の一環だ。その後にはもちろん身体検査や身元の証明もしてもらう。うちの村の中で無駄な死体を増やしたくないという、自警団長の厚意で行われているだけの項目に過ぎない」 「まどろっこしい。とにかく勝ちゃァいいんだろうがよ」  オレやティアより一方後ろで門番の話を聞いていたライレンは、いつのまにやら荷物を地面に置いて左手をブンブンと回している。ライレンには事前にこの村での力比べのことを説明しておいたので、準備は万端といったところなのだろう。 「ところで力比べは何でやるんだい?」 「あれだ」  門番が指さしたのは、コンクリート壁に沿って大量に積まれている瓦だった。 「なるほど、瓦割りか。アルには突破できないわけだ」 「煩いな。 たのんだぞ」  馬鹿にしたような顔でこちらを見るライレンを睨むと、彼はうなずきながらその場にローブを脱ぎ捨てる。インナー姿の彼を見て、門番は目を見開いた。 「腕が無いのか」 「瓦割るだけなら一本で充分だろうが」 「構わないが、容赦はせんぞ」 「いらねェよ、本気でやってくれなきゃ張り合いがねえ」  重々しい雰囲気を放つライレンと門番の二人は並んで瓦を等しい高さにまで積み上げ、その前に立ち同時に身構えた。  自警団長とやらの協力を仰ぐため、オレ達はなんとしてでもセイルの村へ入る必要がある。ここはライレンの力を信じるしかない。
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