その大志を振りかざし

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その大志を振りかざし

 20XX年1月XX日。オレ達四人がセイルの関所を突破した日。  この日は俺にとって、とんでもない厄日だったようだ。  入り口付近には人の気配が一切なかった酪農の村・セイルだが、関所からしばらく歩くとぽつりぽつりと民家や商家らしき建物が見えてきた。といってもその見た目は廃墟そのもので、どうやらこれらの建物内部にあるへ階段を下った先の地下が主な居住区となっているらしい。何かと敵の多いらしい自警団の本拠地であるこの町は、ともかく外からの訪問者に対し警戒心が強いのだ。  門番が言っていた"罠だらけの町"とは、地下に降りてからが本番だった。 「うわぁっ!!」 「アル!」  適当な廃墟の階段から地下通路へ降りたオレ達。一歩目を踏み出したオレは、さっそく最初の罠にかかった。  落とし穴だった。踏み抜いた先の地面がガラガラと崩れ落ち体勢を崩したオレは、危うくそのまま深い穴の底へ落ちそうになったところでライレンに腕を掴まれて難を逃れた。彼の腕にしがみついて恐る恐る下を見ると、穴の底には鋭く巨大な針が敷き詰められており、ところどころに血液がこびり付いている。 「うわ……」 「引き上げるぞ」  オレはライレンとシオンによって引っ張り上げられ、そのまま地面にへたり込んでぜえぜえと息を吐いた。   「気をつけろよ」 「この格好がいけないんだ。動きにくくて仕方がない」  呆れた顔のライレンを見上げながら、オレは今自分が着せられている服を引っ張って抗議を示す。 「服のせいにしないの、それによく似合ってるし!」  ティアがオレの傍へ寄ってきて、ニヤニヤと笑みを浮かべながら手を差し伸べてきた。フンとそっぽを向いて自力で立ち上がり、スカートに付いた埃をパッパと払いのける。  そう、スカート。  自警団に都合の悪い顔見知りが居るせいで交渉が上手くいかない可能性を鑑みたオレは、ライレン達だけで自警団の拠点へ向かってもらうことを頼んだのだが、ティアのある提案によって結局交渉に出向くこととなった。  その提案というのが、今まさにやらされている女装である。  ティアは普段動きやすいようにかパンツ姿であることが多く、あまり派手な服装をしているところも見たことが無かったのだが、荷物の中には何に備えてなのか一応可愛らしい装飾のついたスカートなども入れていたらしい。関所から少し歩いたところにあった廃墟の影でオレはティアとシオンにひん剥かれ、フリフリのスカートを履かされ、さらには髪型をいじられて化粧までされてしまったのだ。 「何故こんな目に遭わなくちゃいけないんだ……」  女装はさせられるわ、罠にはかかるわ、なんだか今日は散々だ。ワクチンを入手する為とはいえ、正直もうこの村から出ていきたいという気持ちすら湧いてきた。 「そういうなよ、とっても可愛らしいのに。そうだアベル、この先の道は僕が君を抱えていくというのはどうだい。美男美女、絵になるだろう」 「何を言ってるんだ落とし穴に突き落とすぞ」  両手を広げて笑みを浮かべるシオンを睨み上げ、オレは地下通路の先へとヨロヨロ歩き始めた。  セイルの地下はとにかく罠だらけだった。落とし穴に投石機、それに踏み抜くと針の壁が迫ってくる設置型スイッチ。加えて通路は迷宮のように入り組んでおり、進むうちに西も東もわからなくなってくる。時折通路の途中に市場のような空間や住民の居住区らしきエリアも見受けられたが、そこにいた人々はよそ者への警戒心が強く詳しい自警団の拠点の位置を教えてくれる人は一人もいなかった。  そういうわけで罠に翻弄されながら、道に散々迷いながらと、必死で拠点を目指すこと約三時間。あの身体能力がずば抜けているライレンにすら疲労の表情が見えてきたところで、ようやくそれらしき場所を発見することが出来た。  地下通路からさらに数段階段を下りる構造になっている場所があり、その下に小さな木の扉がついていて、中央に取り付けられた同じく木製の小さなボードには"血勇団"と刻まれていた。  "血勇団"。政府が存在しないこの国の自治を目的に形成された組織で、国内の犯罪者や国外の侵入者を排除する為に日夜奔走しているのだという。ライレンやティアのような狂人狩りとは異なり、こちらは対人間が専門の戦闘集団というわけだ。  国を誰より憂う彼らなら、きっとワクチンの入手に手を貸してくれるはずだ。    
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