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【番外】記憶の護り人
20XX年1月XX日。
グレアランド横断中の出来事だ。
ちょうど国土の中央に当たる首都近郊まで差し掛かったところで、オレ達は小さな宿屋に部屋を取ってそこで一晩を明かすこととなった。
グレアランド滞在中は特に食料に困ることは無かったが、そう頻繁に店に立ち寄っている時間もなかったので食糧は常に買いだめて徒歩や鉄道で移動しながら食事をすることが多くなった。買い物周りはオレが担当していたのでその日の夜もライレンを荷物持ちに連れて宿屋の近くに会ったパン屋を訪れたのだが、その帰り道にとある人物に出会った。
「なぁ、そこの兄ちゃん」
「あ?」
ライレンが肩を叩かれて振り返ると、そこには三十代くらいに見える金髪の男性が立っていた。
「いい趣味してるじゃねェか」
男性は右手で自分の耳の上を指さした。ライレンがずっと髪につけている例の羽根飾りのことを言っているのだろう。ライレンは飾りを弄りながら、仏頂面で男を睨みつける。
「何が言いたい」
「それと同じものをつけていた人物を知っているんだ。確か手作りの品で、唯一無二の物だと言っていたはずだけど」
「え?」
「セナという女性だ。知らないか?」
「____!」
セナというのは確か、いつだかにライレンが口にした元恋人の名前だったはずだ。
「オイ、知り合いか?」
「いや全く」
元恋人の名前を出され狼狽えている様子のライレンに訪ねるが、彼は羽根飾りを隠すように手を置いたまま首を振った。
「オレの名前はフェイだ。セナにはアイスティールにいた時期に少しばかり世話になってな」
「……何の用だ」
「君はセナの弟か何かか?」
「違う」
「そうか、……まあいい。少し頼まれてくれないか」
何か考え込むように額に二本指をあてた後、彼は懐から小さな封筒のような物をとりだしてそれをライレンに差し出した。
「なんだ」
「セナに渡してくれ。中身は彼女に見せればわかる」
「何言ってんだ、セナはとっくの昔に死んだぜ」
サラリと言い放たれたライレンの一言に、オレもフェイと名乗った男も驚きの声を上げた。
「そうだったのか、それは申し訳ないことを聞いた」
「別にかまやしねぇ」
「そうか、彼女がもう……いや、でもやはりこれは君が持っていてくれ。セナの知り合いということはアイスティールから来たんだろう?いずれ役に立つ」
フェイは暗い顔をしながらも、ライレンに封筒を押し付けるように手渡した。
それから数分ほどセナに関するなんでもない会話をしたのちに、満足したのかフェイはその場から立ち去った。彼の姿が見えなくなるなり、ライレンはすぐに渡された封筒を開けて中を覗いていた。出てきたのは一枚の古ぼけた地図だった。それもおそらくはアイスティールやグレアランドの地形を描いたものではない。ハルニシア全土の地図と思しきそれにはある一か所に大きく赤い印が入れられており、そこに一言だけ"ワクチン"との走り書きがされていた。
「……これって、もしかして」
ワクチンの在処を示した地図なのだろうか。いや、だとしたら、あの男はいったい何者なのだろう。
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