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アイル教団
ライレンがなんなくゾンビから救い出した二人の子供達に話を聞けば、なんでも彼らはハルニシアの郊外に住む祖母のために薬を届けに行く最中でハープ樹海へ迷い込んでしまったのだという。
「あんな怖いのがいるなんて知らなかった」
「パパについてきてもらえばよかった」
目に涙を浮かべてティアに縋りつく二人の子供を他所に、ライレンはちゃっかり倒れたゾンビの爪を剥いでいる。子供の前では止めろと咎めたが、彼は気にも留めない様子だ。
オレ達の国では孤児でもない限りまず子供だけで外出させるなんてことはしないのだが、どうやらハルニシアではゾンビはごく珍しい存在のようで、彼らの両親はまさか外にそんな危険が待ち受けているなどと思いもしなかったのだろう。にしてもこんな危険な森林地帯の傍に使いに出すなんて随分平和ボケしているように感じるが、土地が違えば感覚も異なることなど商人の間では常識だ。
それだけ平和な国だということなのだろう。もしここにオレ達の国を破滅へ導いたウイルスの元凶があるのだとしたら、随分と皮肉な話だ。
「にしても自分の国にまでウイルスを巻くなんて、アイル教団ってのは一体何がしたいんだろうね」
「いや、単に漏れただけという可能性も有る」
子供たちの頭を撫でながら言うティアに首を振る。確か例の日記には、アイスティールだけでなくグレアランドにもゾンビが出たことがあるという記述があった。生物兵器「SS」がどういった媒体によって感染するものなのかは一切わかっていないのだが、例えば人から人への感染というように開発者のコントロールが効かない感染経路があるのだとしたら、アイル教団からウイルスが漏れ出してしまったということも考えられる。
「何にせよ、急いだ方が良さそうだな。この国までゾンビだらけになられたたら余計に動きにくい」
「この子たちはどうするの?」
「置いていけばいいだろう」
「そういうわけにいくか」
冷たく言い放つシオンを小突いて、オレはティアと子供たち二人の前に歩み出た。
「どうだろう、君たちの祖母の家まで送らせてくれないか?」
「いいの?」
「急がなくちゃいけねェんじゃなかったのか?」
爪を剥ぎ終えたライレンがこちらへ近づいてくる。何度見ても、その両手が鮮血で染まっているのを気にも留めない様は見るに堪えない。
「この国の人々なら、少なくともオレ達よりアイル教団について知っていることがあるかもしれないだろう。この子たちを送りながら、ハルニシアに住む人たちに聞き込みをすればいいい。乗り込む先こそわかっているが、オレ達は連中について知らなさすぎる」
グレアランド通過の際に怪しまれないためと人数を絞って来たはいいが、果たして五人程度でどうにかなる規模の組織なのかもわからない。オレ達の目的はあくまでワクチンであるので隠密に盗み出すつもりではいるが、血の気の多いライレンがいたのでは彼らと戦闘になることも視野に入れておく必要がある。
見る限りティアや団長は子供好きのようですぐにオレに同意したが、後の二人は渋々といった様子だった。思えばシオンは、昔から子供が苦手だったような気がする。
20XX年2月XX日。一行は子供二人に案内され、彼らを祖母の家まで送り届けることとなった。
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