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【番外】目指す先は
「転生か……」
団長の話を聞かされてる最中、ライレンがふとぽつりとつぶやいた。
「なんだ、何か気になるのか?」
「古い友人が昔、そういうよくわからねェカルト組織を潰しただとか言ってた気がしてなァ」
「例の恋人か?」
「……そうだ。セナもちょうどアルみたいに、人を殺すなんて言語道断、みたいな奴だった。無駄に正義感が強いから、妙な宗教で人を惑わす連中なんか許せなかったんだろうぜ。そのカルトを潰した時も国を救うためだとか言って、確かグレアランドの軍人に協力して貰って……あっ」
ライレンは懐からしわくちゃになった地図を取り出した。グレアランドに居た時、フェイと名乗った男に手渡されたものだ。
「おいアル、アイツ、セナに世話になったとか言ってたよなァ?」
「ああ」
「セナが、その妙なカルトを潰した時にグレアランドから来た軍人の男に力を借りたんだとか話してたんだ。ひょっとしてアイツのことなんじゃねェか?」
「……だとしたら、その潰したカルトの方はアイル教団に関係があるのかもしれない。お前が渡されたその地図、フェイとセナがアイル教団を以前から睨んでいたのだとしたら辻褄が合う」
「なあ、そのフェイってやつさ」
それまで睡魔に半分打ち負かされコクリコクリと舟をこいでいたティアが、はっと目を覚ましてオレとライレンの間に割り込んできた。
「ライが持ってた日記に出てきた、"軍に顔が利く男"ってヤツなんじゃないの?」
「えっ」
ティアに指摘されてオレ達は目を丸くした。ライレンが懐から出したリンの日記に再び目を通してみるが、確かにリン達にアイル教団の話をした男の名前は一切日記には書かれていない。
"あの男はオレとロスに協力を要請してきた。グレアランド政府が”アイル教団”と手を組んで恐ろしい生物兵器をばら撒いているという証拠を集め、国民に訴えかけて現政権に改革を起こすのが男の目的らしい。"
この日記の持ち主であるリンに情報を渡した男、ライレンの元恋人のセナがカルト組織を潰すのに協力した男、そしてライレンに地図を渡しワクチンの在処を提示した男。その全てが同一人物であるならば、この日記の一説にも充分納得がいく。
あの男はとにかくアイル教団を潰したいのだ。リンもセナもオレ達も、何の因果か彼の思惑に巻き込まれているらしい。
「そういうことなら、アイツも首根っこをひっつかんで連れてくるんだったなァ」
「同意見だ、オレ達の目的と利害こそ一致しているが、自分だけ表に出てこないやり方が気に食わないな」
「ああ、利用されてるみたいで癪だぜ」
ライレンが舌を鳴らした。ひょっとしたらオレ達がやろうとしていることは、オレ達の思っているより遥かに大きなことなのかもしれない。
20XX年2月XX日。アイル教団が本拠地とする研究所に到達する前夜、長い旅の最後の夜だった。
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