天使さまは俺を『善』に導きたいらしい

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『んー! 今日も善いことしましたね!』 「はー、俺は疲れた」 今日はスーパーで荷台の車輪が溝にはまって困っていたおばあさんを助け、そのまま家に送った。 その流れでなぜかおばあさんの家に招待され、若いころからおじいさんとの出会いの話、子供の話から孫の話までをお茶6杯かけて話された。 ぐったりとした俺は、スーパーで買った食材と共に帰路につく。 その時間20時。ちなみに夜ご飯はそのおばあさんにごちそうになった。 やれこれはじいさんの好物だ、息子の好物だ、孫の好物だ……人の好物ばかりを押し付けてくる……食べさせてくる。 若干キャパオーバーな腹を抑えてマンションの一室、俺の自宅に帰るや否や、ベッドにダイブ。 スーパーの袋はそのままその辺にポイだ。 「はー……。これは『善』と言わずにただ話に流される、自我の弱い人間のように思える……」 『そんなことはありません! あなたも見たでしょう? あのおばあさんの満ち満ちた表情を! おじいさんが亡くなってから買い物以外は外出せず、塞ぎがちになっていた方の表情とは思えませんでした!』 「お前、よく見てるな……。俺ずーーーっとお茶すすってたから話の内容あんま覚えとらん」 『えええー! だ、だって、あんなに相槌うってたじゃないですか! わ、わたし、おじいさんが戦時中に送ってきた手紙のくだりから戦後無事帰還したお話のときなんてもう、目から涙が止まりませんでした!』 「あー、それは覚えてる。俺の顔にまで(しる)という汁が飛んできてすっげー気が散った」 『し、しる!? 汁って言わないで下さい! なんだかすっごいいやな表現じゃないですか!! 涙です、なーみーだーー!』 「(こいつ、いやにテンション高いなー)」 でも、家族のいない俺にとって、家では唯一の話相手がこの天使だ。 中学生の頃に父親は事故で死んだ。それからは母親と暮らしていた。 両親は、その、いわゆる駆け落ちだったらしく、祖母や祖父といった家族を俺は知らないし、母も何も話してはくれなかった。 だがその4年後、高校2年の冬にその母親も病気で帰らぬ人となってしまった。 母は最期まで俺のことを心配しており、やれ進学はしたほうが良いだの嫁は早くもらえだの、駆け落ちはやめた方がいいだの……。 駆け落ち云々はともかく、その言葉通り俺は大学に進学して現在に至るわけだが、この天使はどうも俺の母親に似てるところがあるな。 そのままベッドに横になりながら、目の前をフヨフヨしている天使を見る。 天使は今日あった出来事に、例の点数をつけていた。 「なぁ、その点数って別にずっと100点つけてりゃいいんじゃないの? 自己採点なんだろ? そのほうが早く、なんだっけ……転生できんじゃないの」 『ダメですよ~、これは上司がきちんとソレに見合った点数をつけているかを後でチェックしてるのです!』 ふーん……。 どうやってチェックしてるのやら。疲れた俺は聞き返す元気もなくそのままテキトーな返事を返す。 「どうでもいいけどさ、お前、俺にパンツ丸見え……」 『んなぁぁぁっ! なんてこと言うんですか! これはパンツじゃなくて、そう、いわゆるスコート!!! スコートみたいなものです! って、聞いてます? え、寝落ち? 寝ちゃうの? ねぇぇぇぇ食材ダメになりますよ!』 ああ、そういえばおばあさんとあったスーパーで買い物したんだっけかな。 食材、冷蔵庫に入れなかった。まぁ、いま冬だから腐ることはないだろうと、まどろむ頭の中でぼーっと考えながら、俺はそのまま夢中へ落ちていった。 『でも、あともうすこし……。もうすこし君がちゃらんぽらんな性格だったらずーっと一緒にいられたんだけどね……』
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