天使さまは俺を『善』に導きたいらしい

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俺には天使が見える。 それだけを言うと「なんだこいつ頭おかしい」と思われるかもしれない。 だが最近、その天使の存在感が薄い。 こうやって道を歩いているだけで、目の端に映り込むやれ金色の髪の毛やらワンピースやら、うっとおしいと思っていたそれらが最近あまり目に入らない。 しかし、いつも通りにその天使は俺の右斜め上を背中から生えている立派な白い羽でフワフワと浮いているのだ。 ふと、なぜこの天使は俺に憑いているのか。別に俺より『善』を大切にする人はいるのだし……。 「(なぁ、お前さ)」 『何ですか~?』 「(なんで俺に憑いてんの?)」 『えっ!? い、いきなりな質問ですね~』 そ、それはですね~、とアタフタする雰囲気を隠しもせずにあーでもないこーでもないと考えている天使。 特に意味はなく、偶然目についた俺を選んだのだろうか。 「(別に、意味なきゃそれでもいいけど)」 『い、意味はあります!! あなたを選んだのは、ちゃんと、意味があるんです……でも、でも、あなたには言えないというか、これは、私の問題というか……』 別に、大層な理由などないと思っていた。 でも天使は違ったようだ。きちんとした理由があり、でもそれは俺には話せない。天使たちの決まり事でもあるのだろうか。そんなに顔面を蒼白にしなくてもいいのに。 「(いや、いいよいいよ、別に話さなくて。なんでだろうなーって、ふと疑問に思っただけだし)」 『す、すみませんんん』 「(いいって)」 その話はこれで終わり。 そしていつも通り困っている人を天使が見つけると、俺に 『ほらっ、出番ですよ! 一日一善! あっ、『善は』一日何回でもOKですけどねっ!』 と話しかけて『善』に勤しむよう俺の背中を押す。 天使は俺に、俺は天使に触れないから押すというのは表現でしかないが。 「あの、だいじょぶっすか?」 「えっ? あ……」 俺が声をかけたのは、俺と同い年くらいの女性。 いきなり男の俺が声をかけるって、そりゃ相手は驚くよな。ちょっと不審な目をしながら、一歩後ろへと下がる女性をみて思う。 「あー、すんません、別に俺怪しいとかそんなんじゃなくて、なんか君困ってんなーと思って……」 「あ、ありがとう……実は、私、東京出てきたばかりで、電車の乗り換えがわからなくて」 「あーなるほど。どこからどこっすか?」 「えっと、いま〇〇線から出てきて、地下鉄△△線に行きたくって……」 ああ、それはややこしい。 〇〇線の駅から一度改札を出て、5分ほど歩かないと地下鉄△△線の駅にたどり着かない。東京の人でも迷うことがあるのに、都外からきた人ならなおさらだ。かくいう俺も、大学に行くためにこの道を通るから最近覚えたんだけどな。 「俺、今その地下鉄に乗り換えるとこなんで、よかったらついてきてください」 「えっ、で、でも……」 「あー、最近は物騒っすからね。一緒に行こうとかじゃないんで安心してください。まぁ、俺を見失わずについてきたら△△線につくから」 「あ、ありがとう……ごめんなさい」 「いーえー」 頬を少し赤く染めたその女性は、俺の対応に安心していた。 道すがら、どうやら俺に慣れたのか、警戒心を解いたのか、その女性と話が膨らんだ。 どうやらその女性は俺と同じ大学で、今までは実家から通っていたが一人暮らしをして今日からこの地下鉄を使うことになったそうだ。 その日は軽い自己紹介と、また迷っていたら声をかけて助けてください。というなんだか新しい逆ナンのような頼みごとをされて連絡先を交換した。 『うんうん、いいよ~! 運命の出会い! やっとここまで……ここまで来た……。わたしね、あなたを選んだ本当の理由は……』
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