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斬新な逆ナンから1カ月。
俺はその女性といわゆる男女のお付き合いをすることとなった。
天使はそれにひどく喜んでいるが、それと同時にひどく寂しそうな顔をする。
多分、今まで天使と会話をしていたことを彼女と会話するようになったから、寂しさを感じているのだろうと俺は勘違いしていた。
だが、彼女といても俺に対する『善』への扱いは変わらない。
デート中であれ何であれ、困った人がいると助ける。この前は迷子の女の子を迷子センターに預けに行った。女の子の保護者はすぐにセンターに駆け付けて事なきを得ていたが、それを見た彼女の俺に対するお株が天井なしに伸びる。
これはあれか、『善』も得て彼女の『信頼』『尊敬』『愛情』も得ることができるまさに一石〇鳥か。
浮かれポンチな俺は、家で鼻歌を歌いながらご飯を食べる。
天使はいつもの定位置ではなく机を挟んで俺の正面に正座をして座っている。
正座をしなければ俺の視界に入らない。
『最近調子がいいですね。『善』ポイントもうなぎのぼりで、彼女さんからの愛情も順調にはぐくまれています』
「愛情をはぐくむって、なん、照れるわー」
『この調子で、私がいなくなっても『善』を続ければ、あなたの人生はお先ピカピッカの光しか見えないので安心してください!』
「ん?」
いなくなるの?
俺はご飯を食べていた手を止めて、天使を見つめる。
そういえば、最初に俺のところに来たときは、俺の足のサイズほどあった天使の大きさも、少し小さくなり20センチほどになっただろうか?
いつの間に小さくなったのだろうか。あれほどキラキラしていた金色の髪の毛も、今はあまりキラキラとしていない。心なしか天使の羽のフワフワ感もしおれているように見える。
『わたしの『善』ポイントがたまったのです!』
「えっ、あ、そう…なんだ……ポイント……」
『あなたにも良い方が現れましたし、わたしに思い残すことはありません! これで、転生できます』
待て、そんな今更スーパーのポイントみたいに点数を……とか突っ込む雰囲気ではないようだ。天使は今までにないくらい真面目な態度を取っている。
それを目にした俺は、自然と自分の姿勢も正した。
すると天使の体が少しずつ、少しずつではあるがぽつぽつとした光に包まれていく。そうか、これが最後のお別れになるのかと、俺は頭の中でサヨナラの
言葉を探す。
「あー、なんだ、お前とは2年ちょいの付き合いだったけど、結構楽しかったよ」
『わたしもです! わたし、絶対あなたの担当になるって、この体になった時に決めたんです』
「へー…え、天使の前の体ってなんなん!? ってかそんなすぐに俺の担当になるって決めてって、やっぱもう一度聞きたいわ。なんで俺を選んだの?」
天使は少し目を見開いた後、いつかの時と同じように少し寂しげな顔をした。
何かを言いたそうに口を開くが、すぐに閉じる。
『あ』『えっと』と、言葉を口に出しては見るが、文章にはならない。
やはり、これは聞いてはいけないことなのだろう。
「いや、いいよ、無理して言わなくて。最後だからさ、聞いておこうかなと思っただけだし」
『い、いえ! これは……確かにあまり大きな声で言えないんですが、言ってはいけないという決まりもありませんし、前にも言いましたが、本当にわたし自身の心の問題なんです』
その後少し両者に沈黙が流れる。その間にも天使の体は光に包まれ、少しずつ消えていく。
羽、足、手、身体……光に全て包み込まれ、かろうじて目視できるのは天使顔だけだ。青い目、金色の長い髪の毛、次第にそれらも光に包まれていく。
もうすぐ消える、その時、天使は意を決したように青い目で俺をにらめつけるかのような鋭い視線を向けた。
『わたし、わたしがあなたを選んだのは、
わたしは、あなたの…… 。一緒にいたかったの……。
でも大丈夫…… 今のあなたは …』
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