天使さまは俺を『善』に導きたいらしい

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天使さまは俺を『善』に導きたいらしい

突然だが、俺には俺の右斜め上を飛ぶ天使が見える。 大きさはそうだな、俺の靴くらい(27cm)で金髪ウェーブ、白い袖なしのワンピースをひらひらさせて、その背中にある白い羽をパタパタ動かし飛んでいる。 なんとまあ、ベタな天使だ。 『わたしの役目はあなたを『善』に導くこと!』 そういいながら、今日も俺を『善』に導こうとまい進している。 道を歩くと、おのずと何か小さいことに困っている人がいる。 例えば迷子になっている子どもを探している親御さん。 その時は「子どもを探すことを手伝う」ではなく「近くの交番に親御さんを案内する」という選択肢を選んだ俺に、天使は微妙な顔をしていた。 その後、無事交番に保護されていた子供と再会を果たした親御さんを見て、少し涙しながらウンウンうなづいていた天使の様子を見ると、あながち間違った選択ではなかったのかとホッとした。 『あそこで交番に行くという選択肢はなかなかでした! 冷静な判断のできる方は女性にもモテますよ!』 「(はぁ、ソウデスカ)」 『でも、不安そうな親御さんにまずは安心させる言葉をかけるのが一番ベストな選択だったかと! うーんそうですね、今回は75点といったところでしょうか』 「(ワー、アリガトウゴザマス)」 この天使、俺の思考がどうやら読めるらしい。 筒抜けなことに俺は顔面を青くしたが、どうやら読もうと思わなければわからないらしいので、そこは腰を低くしてお願いをした。 「むやみやたらに読むな」 と。 道を歩いている俺が天使に話かけられ、それに普通に答えると、天使が見えないほかの人には俺がただ独り言をブツブツ言うヤバイヤツにしか見えない。 そしてこの天使、『善』に対してひとつひとつに点数をつける。 その点が累積し、協会だかどっかに提出をしてある基準を超えると、天使は希望する元へ転生ができるとか。 それを聞いた俺は「お前はもともと人間なのか」と聞いたことがある。 だが、天使はとても悲しそうな顔をしたので、それ以上は聞くことができなかった。聞いてはいけないことだったのか、それとも話せないことなのか。 どうであれ、俺の毎日に変化があることはない。 確かに右斜め上をフヨフヨしている天使の髪の毛が視界にチラチラと入ってきてうっとおしい時もあるし、食事をカップラーメンで終わらせようとスーパーで買い物をしていると『栄養が偏るのでカップラーメンはいけません!』と小うるさい時もあるし。 でも、電車でお年寄りや妊婦に席を譲るのに勇気が出せなかった俺が、スッと席を譲れるようになったし、マタニティマークのほかにヘルプマークというものがあるというのも知った。 撤回しよう。 俺の毎日に変化があることはない。けれど、俺の認知は少しずつ変わってきている。この右斜めをフヨフヨしている、風がなびくとワンピースがめくれ上がってかぼちゃパンツが丸見えになる天使によって。
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