罪人姫は黄昏に散る

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引くぐらい酷い有様のツキの遺体が残った。 ぶっちゃけ、ボムイノシシを野生の山へ返しても良かったのか不安な程に危険な魔物ではないか。 そのボムイノシシより、よっぽど悪意を持って躊躇なく桃太郎を殺害したこの罪人姫はそれより酷い相手だが……。 「助ける義理なんか無いか……」 子供姿であったならばツキの遺体と処理されたかもしれんが、今の姿は成人に近い女性の姿。 このまま放置しておけば身元不明の遺体として処理され、被害者はボムイノシシと判断されるであろう。 そして、ババとジジにはツキが行方不明にでもなったと説明しておけば矛盾は生じない。 ……なんだけどなぁ……。 「……」 ーーすっげー複雑。 ツキは正直どうでもいい、その辺で死んでおけ。 だけど血の繋がりもなく可愛がってるあの老人2人を悲しませるのはな……。 この馬鹿女が、老人2人に対して恩を感じているかだが……。 昼間の言葉を思い出す。 『じゃあ血の繋がりは無いわけだ。ツキは爺さんと婆さんは好きか?』 『大好きー』 ………………殺された相手だというのに、本当にどうにかしてる。 飛び散った血で赤くなった骸の手を握り、逆行の魔術を使う。 次また俺を殺そうとするならば、情け容赦なく返り討ちにする。 俺を拾ってくれた2人の為に、俺は罪人姫を蘇らせた……。 一応悪さの元凶である邪心の穢れだけでも払っておくか……。 「これがすっげー嫌いなんだよな……」 魔術師になった、後悔の元凶。 第3ラウンドの開始である。 俺は、こいつの邪気を受け止める。 ――――― 目を開くと黄昏の光が映る。 頭が真っ白で状況が理解出来ないが、上半身を起こす。 『……あれ?下半身吹き飛ばなかったかったかしら?』、と疑問が出てくる。 しかし、折角手にした元の姿はまた女の子の身体に戻っていた。 「よう、罪人姫」 傍らに男の子の声がして、そちらに視線を向ける。 「も、桃太郎……。あんたなんで……?」 生きていて、しかもツキの生死すら操った……? 彼女も初対面から変だ変だと思っていたが、変を通り越してこいつは異常だ。 「あんた、何者なのよ……?」 「ただの魔術師」 「ただのなわけでは無いでしょ!?絶対何か違う存在でしょ!?」 「違う存在というならば俺は前世の記憶持ちだ。前世で魔術師みたいな仕事をしながら食い扶持を繋いでいたただの駄目人間だよ」 「……」 なんとも説明している様でしてないではないか……。 前世の記憶があるのと人の生死をどうにかするのはイコールでは繋がらないだろうに……。 「これは忠告だ、お前に次なんてない。次、俺を殺害しようとするならばその時は人間の尊厳なく消す」 「う、うん……」 ただ、もう魔力の塊である桃太郎からそれを盗んでやろうとかそういった気にはならない……。 というか、月に戻って姫に返り咲こうとすら思わない。 なんでそんなくだらない事に執着していたのか、とすら思う……。 「……邪気はきちんと取れたかな」 ボソッと何か桃太郎は呟く。 「なんで……、私を助けた……?」 「お前の為では無い。ただ爺さんと婆さんが悲しむから。それだけだ、お前なんかくたばっていようがどうでもいい」 ツキには興味なさそうな視線を送ってから、顔を背けて階段に向かう。 「次こそ本当に帰るぞツキ。もう少しで本当に夜になっちまう」 「うん……」 桃太郎は彼女を罪人姫でもお前でもなく、ツキへと呼び方が変わっていた。 そんな筈無いのに……、また家族として見てくれたのではないかと思わずにはいられない……。
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