罪人姫は黄昏に散る

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桃太郎に転生した御剣恭弥は、念願で憧れだった子供になった。 無限の可能性に満ちた存在の子供。 しかし、前世の御剣恭弥という男の記憶が残っているのならば、子供(ももたろう)は成長しても駄目人間(ミツルギキョウヤ)にしかなれないのではないかという不安も残るのであった。 ブレード一家に拾われ早1週間。 桃太郎は調べられることは調べた。 ニューセンチュリー244年という意味不明な西暦がババ・ブレードの口から飛びだした時は耳を疑って、頬つねった出来事もあった。。 翻訳すると『新世紀』って……、どこのアニメだよ……。 桃太郎とはそもそもこんな世界観だったのだろうか? もっと、和テイストな物語のイメージが強い気がする。 確か成長が早い桃太郎って描写あったけど、果たして桃から飛びだした瞬間メンタル30歳の子供だったのだろうか。 それで良いか、それが桃太郎(ミツルギキョウヤ)流の桃太郎だ。 ある日、ババが山へ芝刈りに、ジジが川へ洗濯しに出掛けて行ったので、同居人のツキと2人になり、どうせならと親交を深めようと少し踏み込む桃太郎。 「ツキの両親はどうしたんだ?」 桃太郎の物語には影も形も姿が描写されないツキという女だが、果たしてババとジジとはどんな関係なのだろうか? 桃太郎の世界であるのかどうかを知る意味もあった。 「私とお爺ちゃん達は全く血の繋がりは無いよ」 「へぇ?」 改めてツキという女の容姿を確認する桃太郎。 活発でよく喋る子供、見惚れてしまいそうな程に美しい黒い髪が特に目を惹く。 まだ10歳いくかいかないかぐらいではあるが、絶対に将来は美人を約束されていると思わせるくらいに、その黒い髪は神秘的であった。 「私ね……、竹から出てきたんだって……」 「あはははははは!」 「なんで桃から出てきたガキに笑われないといけないのよ!」 意味不明過ぎて笑いを噛み殺せず大爆笑してしまう桃太郎。 「黄金に輝く竹……。そう、月の光とお爺ちゃんが揶揄するくらいに美しい竹の中に小さな赤ん坊……、そこに私が入っていたんだって。私の名前のツキはそれに因んだものなんだ」 「あはははははっはあっは!」 「聞いてねーなこいつ……」 「じゃあお前いっそ月の住人なんじゃねーのかよ!ブフフッ……」 「んなわけー」 『それは意味不明』だと言わんばかりにツキは笑った。 ーー良い笑顔だ、子供の笑顔はこの輝きが愛おしい。 竹を切って女の子を連れて来た爺さん。 桃を拾って男の子を連れて来た婆さん。 どんなミラクルが揃ったらそんなことがあるのだろうか。 あぁ、考えられないって。 何故かリアリストな桃太郎である。 「じゃあ血の繋がりは無いわけだ。ツキは爺さんと婆さんは好きか?」 「うん、大好きー」 躊躇わずに即答で微笑ましい気持ちが溢れた。 そういう子供は大好きな桃太郎であった。 「そうだ、桃太郎!縄跳びって知ってる?お婆ちゃんから教えてもらったんだけど縄1本で遊ぶんだけどわかるかなー?」 ボロい縄を持ってツキが桃太郎に教える先生みたいな真似事をする。 「縄って目隠ししながら人を縛る以外に使い道あるのか?」 「え?何それ怖い……」 「あぁ、ごめん。人をいたぶったりする時も使うか」 「違うって!?何その使い道!?」 「ぱしーん、ぱしーんって。ブヒィって鳴くの」 「なんで豚が?」 通じないツキであるが、見兼ねてツキが桃太郎の手を取った。 「一緒に遊ぼう、桃太郎!」 「あ、あぁ……」 血の繋がらない義姉と、初めて外に連れ出された桃太郎。 遊ぶという、久しく聞いてなかった子供っぽい単語を聞き、ようやく自分が子供だという自覚を持った気がする。 魔術師だった男のセカンドライフが始まりを告げる――。
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