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ツキに数分連れられて神社の境内に連れられる。
ざっとババの家の近所を歩いたが、なんとものどかな田舎風景であった。
すぐ目の前が山なので、虫や野良猫も結構見掛けた。
「見ててね!縄跳びっていうのはこうやってー」
縄を後ろから前に回して、ツキの足元に縄がきた瞬間にジャンプして、縄をくぐり抜ける。
「あ、ああーっ!ツ、ツキが凄い縄裁きで跳んでいるーっ!」
「ふふん、凄いでしょ」
そのままドヤ顔でぴょんぴょんと10回くらい跳んでいた。
そういえば、孤児院でそんな遊びをしていたキッズと重なる桃太郎。
そのキッズの名前は覚えていないのであるが、末路だけは覚えている。
暗いことを思いだし、桃太郎は我に返る。
「形は似てるけど、確か三重跳びって呼び方するんじゃなかったか?」
多分人によって、オセロとリバーシーみたいな呼び方が違うやつである。
ケイドロかドロケイとかそういう類だ。
「……桃太郎って桃に入る前の記憶ある?」
「え……?」
ある、けどそれは桃太郎としてではなく、御剣恭弥という関係ない男としての人生。
語るにも値しない、ゴミみたいな人生の男の話を無垢な子供にするわけにはいかない。
「記憶は無い。……けど、若干知識はあるみたい。本能的な?だからエピソード記憶が消されて、意味記憶だけはちょっとあるっぽい?」
「?……?……ああ、エビフライは尻尾が固いね!」
「無理して合わせなくていいよ……」
エピソード記憶が通じないツキ……。
だからといってエビフライと、自分のわかる単語にすり替えるのは姑息な女であった。
「私がお姉ちゃんなんだから!私より難しい単語使ってダメえええ!桃太郎いじわるううう」
「わーったよ」
お姉さんぶりたいお年頃。
しかし、それはそれで精神年齢は圧倒的年下のツキ相手に下手に出るのも、桃太郎のプライドが……。
せめて対等、それくらいじゃないと妥協出来ないと一昨日に決意していた。
「桃太郎もやってみて!ちょームズイんだよ!」
「ちょームズイのか」
「私だって初めて跳べたのに3日かかったんだから」
ボロ縄を渡される。
絶対に失敗すると見下した目で姉としてマウントを取ろうとしているのがわかる。
まあ、孤児院で三重跳びとやらを目撃したことはあるが、実際にしたことは無いのだ。
ツキがそう言うのなら失敗するのだろう、桃太郎は縄を握って孤児院で三重跳びをしていた子をイメージして縄を回してみる。
「やるよー」
「うん」
目を瞑って、深呼吸。
出来るだけ詳細に思い出す。
とりあえず、今世でも忌々しい魔術を扱えるのか確かめてみなければならない。
魔術――リプレイ。
記憶でイメージした通りの動きを完全にコピーする低級魔術を発動させる。
「ほっ、ほっ、ほっ」
1回のジャンプで縄を3回回すという動きをしてみせた。
身体の負担はやや大きいが、俺の記憶力と魔術は健在だった。
魔術が使えないのが理想だったのだが、普通に扱えてしまう。
同時展開も試してみる桃太郎。
ーー『魔術なんか使えない様に……』と祈りながらもう1つ魔術を展開する。
魔術――ブースト。
身体の体内時間を引き上げる能力であり、リアルタイム1秒内に体内時間を60秒程に引き延ばす加減をしてみる。
これによって身体の動きが大幅に減少し、俺が1度跳んでいる間に地面と足の間に縄を40回程度通過させた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
一気に負担が増し、手から縄を離してしまう。
軍を抜けて以降、運動もロクにせず――いや、そもそも子供の身体だからか……。
疲労が激しい……。
「ど、どぅだった……、ツキ……」
「…………」
ツキがポカンと間抜け顔で俺を凝視している。
2秒後、ようやく正気に戻った。
「できてない……」
「え?」
ボソッとなんか呟いた。
「出来てない!私は縄が回る間1回跳ぶのを実践したのに桃太郎は何回もビョンビョン跳んでて違うじゃん!縄跳びじゃないよ!へたくそ!」
「へ……へたくそ……。初めてだったんだしさ……」
「私だって出来るもん!」
落ちた縄を拾い、ツキがもう1度縄跳びを始める。
「えーいっ!あ……」
だが1回のジャンプで2回通らせることも出来ずに足元に縄が絡まる。
それを何回か挑戦するも一向に出来なかった。
10回程度ミスが連発してようやく縄跳びを止めた。
「ふん、また劣等を抱いてしまった……」
「誰だよお前……」
髪をかき上げる上品な仕草と共に格好悪いセリフを呟いたツキ。
それから普通に縄跳びを始めたツキ。
桃太郎にはもう2度と縄を渡さないまま1人で縄跳びをして遊んでいた。
他愛ない雑談をしながら夕方になるまで2人っきりだった。
「そろそろ帰ろうぜ……」
「うん」
ソロゲームやってる友達の横で、楽しんでるフリをしながら笑顔を浮かべる心境を思い出した。
いそいそと帰ろうとした時であった。
『ブウウウウ……』
獣の声が神社の境内に響く。
成人したと思われる程に巨大なイノシシが桃太郎とツキを視界に入れている。
多分、子供の彼らを襲おうとしているのがわかる。
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