罪人姫は黄昏に散る

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「う、嘘……、ボムイノシシ……」 「は?ボム?」 「ま、魔物……。鬼の血が混ざったイノシシ……」 ツキがイノシシに恐怖している……。 魔物……、というにはあまりにも普通のイノシシであるが尻尾に特徴がある。 「導線になってるの……、お爺ちゃんから見掛けたら逃げろって言われてるの……」 「は?」 「逃げるよ!」 ツキが俺の手を引く。 そのまま境内の出入り口に引かれるが……。 『ブウウウウウウウッ!!』 尻尾の導線に火が付き、逃げる俺達よりも速く駆け出してくる。 そして……。 ――バァァァァン! 爆弾の如くイノシシが破裂する。 イノシシの、約直径30センチの範囲が爆発した。 桃太郎が巻き込まれまいとツキの方に飛び込み少しでもイノシシの爆心地から遠ざかる。 「くっ……!?」 ツキが発言した魔物という存在。 なんて規格外なんだ!? 動物が魔力を持っているなんて聞いたことがない。 しかし、爆発した。 「ふ、フハハ!どうだイノシシは自爆して死んだぞ!」 「ち、違う……。ボムイノシシにとって爆発は成長……」 「……は?」 煙が晴れてくる。 そこに立つ黒い影が、爆心地より直径30センチぶん、イノシシは体格が良くなった状態で立ちはだかっていた。 爆発は成長、……つまり爆発する程にイノシシは強化されるということか。 イノシシの体内は、魔力の塊であるのがわかった。 もし、イノシシを真っ二つにしたり、猟銃で撃ち抜いた時は、辺り1キロ周辺を爆発する自爆能力があるくらいの魔力があるのが推測される。 だから、この辺の住民は討伐出来なかったのが推察出来る。 「ボムイノシシが出没した際は逃げるしか方法は無いのか?」 「う、うん……。絶対に怒らせてはいけないって……」 普段から神社を縄張りにしていて、それを荒らされたと勘違いして怒り狂っているのだろうか。 こうなったら、今ここでイノシシを討伐するしか桃太郎とツキが生き残る方法は無い。 「ツキはそこで待ってろ……」 「ま、待って桃太郎!?」 「来るな!」 「っ……」 柄にもなく叫ぶ。 彼がこんなに声を張り上げたのも軍を抜けて以来だ。 ーークソッ、俺は戦いが不慣れな出来損ない駄目人間なのによっ! ツキから数メートル離れて、小石をボムイノシシに投げ付ける。 『ブウウウウウ!』 怒りの咆哮を上げながら、一直線上に桃太郎目掛けて突進してくるイノシシ。 彼は右手に魔力を込めていき、イノシシが手に届く範囲の間合いに入った瞬間に魔力を一気にイノシシに注入した。 『ブ、ブ、ブゥぅ……』 弱々しくなるイノシシの鳴き声。 生き物とは皆等しく、成長の壁にぶち当たるものだ。 常に成長期なんて都合の良いものはなく、衰えていくものだ――身体的にもメンタル的にも魂的にも。 桃太郎の計算上、今イノシシに込めた魔力は前世で暮らした地球と同じ大きさにボムイノシシに膨らませられる程度の魔力だ。 だが、そんな魔力をイノシシは吸収は出来ない。 爆発しようにも、地球と同程度の巨大爆弾になる為に、こんな魔力を解放する器はボムイノシシには備わっていない。 莫大な魔力を扱いきれる筈もなく、イノシシは魔力に酔い、ビクンビクンしている。 そこにボムイノシシを閉じ込める術を展開する。 魔術――バリアボール。 イノシシの周りに丸いバリアを張って閉じ込める。 「ごめんな……、満足に爆発もさせてもらえないなんてな……」 そのまま膨大な魔力の処理も仕切れる筈もなく、既に呼吸困難に陥っていたボムイノシシは追い討ちを掛ける様に。 密閉された空間に閉じ込められて、二酸化炭素が溢れて呼吸が出来なくなっていき徐々に弱って、そのまま命を散らしてしまうだろう。 そんな手負いに追い討ちを掛けるのも面倒だし、そっとしておこう。 「も、桃太郎……?今のは一体……?」 「見られてしまった様だねツキ……」 一部始終、魔術を駆使してボムイノシシを翻弄させた姿を見ていたツキは驚愕の顔をしている。 「今のはね……」 「今のは……?」 「偶然だよ」 「偶然……」 偶然でごり押しすることにした。 だって魔術師なんて、信じられないだろうと気遣った。 「さ、帰ろうかツキ」 早く家に帰ろうと促して、桃太郎が境内の階段を降りる一歩を踏む。 「ま、待って桃太郎」 後ろから聞こえる声は、慌ててツキが走りだしたのがわかる。 そして、桃太郎の背中に追い付く。 「ばーか」 「……え?」 桃太郎の胸に魔力の塊で構築された黄金の刃が生えていた。 刃が身体と服を貫通し、血で滲みだした……。
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