罪人姫は黄昏に散る

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「何、をっ……」 血を吐きながら、桃太郎は振り向く。 信じたくない、信じたくない、信じたくない。 数日であったが、ツキという女の子が簡単に人を刺す様な人間と思いたくなかった……。 桃太郎の視界に映るツキの顔。 口は三日月の形に歪んでいる。 今のツキは、大きすぎる満月に対する気持ちと同じ不気味さがある。 「あはは!私の名前はツキ・ブレードなんて名前ではありませーん、本当の名前はかぐやでーす!」 「…………だ、誰だ……?」 「私の正体は……、月の罪人姫」 よく知らん名前が出てきた……。 しかも、罪人、悪い奴である。 「良いねぇ!良いねぇ!魔力高いのに気付いてたから確証が欲しかったの」 桃太郎の右耳を舌で舐めてくるツキ。 薄れてくる意識の中、暖かい舌の感触だけが右耳に残っている。 「ゼ・ン・ブ、お・し・ば・い。あんなタイミングで都合良くボムイノシシが来るわけないじゃないのー、ぼくぅ?」 「…………」 「死んだか……。ふふふ、やっぱり魔力がたんまり残ってるじゃないこの桃ガキ」 桃太郎の遺体から刃越しに魔力を吸収する。 ーー凄い、こんな魔力を体内に蓄えている人間初めてだわ。 月で罪人姫と揶揄された私は魔力を吸い上げられ、身体も子供の様に小さくされ、月を追放された。 復讐をするなら10年以上の長いスパンを必要と考えていたが、たまたまジジ・ブレードが拾った義弟を犠牲にして一気に問題が解決した。 「あぁ、素晴らしい……。ありがとうね、桃太郎――私の犠牲になってくれて」 魔力を吸い付くし、刃――三日月を引き抜く。 三日月は、余程魔力を吸ったのか今まで見たことのないくらいにハッキリした実体化をしており、また輝いていた。 「ありがとう、愛しているわ桃太郎。貴方がもし月の住人で、私の味方で居てくれたなら婚約者に任命していたわ」 数日間とはいえ、ツキの弟役を演じてくれた役者にお礼を言う。 それくらいの役得をあげない程、冷たい女ではない。 「私はこれより、ツキ・ブレードの名前を捨てて、わたくしはかぐやへ戻りますわ」 身体の大きさを元の年齢である18歳のものへと復元させた。 自慢だった豊満な胸、スラッとした美脚、ハリのある長い黒髪、自他共に認める美しい顔の全てを取り戻す。 急に身体が大きくなったことで服が破れてしまったので、月の皇族専用の正装へ魔法で着替えた。 さようなら、お爺ちゃん。 さようなら、お婆ちゃん。 さようなら、桃太郎。 先程手に入れた魔力を出し惜しみなく使い、月へのゲートを開く。 この先に、(わたくしのせかい)が広がっている。 「……え?」 嘘?な、なんで……? 『ブウウウウウ!』 ゲートを開けたすぐ目の前に――ボムイノシシが立っていた。
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