魔術師が転生して桃太郎になったんだけど、俺が知ってる桃太郎じゃない……

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魔術師が転生して桃太郎になったんだけど、俺が知ってる桃太郎じゃない……

西暦2019年、令和元年。 御剣恭弥(ミツルギキョウヤ)は、日本のどこにでも居る駄目人間である。 年齢30歳、独身の悲しき薄っぺらい人生を送っている。 ちょっと魔術に絡んだ人生を送り、こんなロクなもん覚えるべきじゃねーやとつくづく思う中年のなりかけ。 ーーあぁ……、学生時代は勉強出来たんだしもっと普通な勉強を受ければ良かったと30歳になる前に気付かなかったのかね。 まだ目の前に立ってる40歳ぐらいのコンビニバイトの方が生き生きした顔していて、自分が最底辺を歩んでいるとすら思ってしまう。 客も居ないみたいだしおっちゃんに年齢を聞いてみるか、と恭弥は気まぐれでバイトの人に話し掛けた。 「おっちゃん、あんたいくつだ?」 「31歳だよ。はいお釣り200円」 意外にも恭弥と1歳しか変わらないくらい老け顔のおっちゃんだった。 恭弥にとって、この会話に意味はない。 御剣恭弥という人間の紹介することが無さ過ぎて、コンビニバイトのおっちゃんの紹介でもして話を盛ろうとしたのである。 恭弥はこれから遠出の仕事で、もう数キロ先の小学校へ用事がある。 ここには今日しか立ち寄ることが無さそうなので、このおっちゃんとも刹那的な一期一会の仲である。 コンビニの店員と客、それでしか混じわらない仲であった。 「俺はさ、子供が好きなんだ。可能性に満ちててさ、色々な形にもなれる粘土みたいな存在でさ、憧れるのさ」 別に恭弥はロリコン、ショタコンってわけでは無い。 単に、眩しくて、彼には作れない表情で笑える存在であった。 純粋にそのままの意味で憧れた。 「まあ、粘土で遊んだ子供の手からは粘土のにおいがするからな」 ーーこのおっちゃんはなんの話をしているんだろう……。 ズレた返答に苦笑しながら、コンビニで買った商品を受け取った。 「またのお越しを」 老け顔のおっちゃんは笑って恭弥を送り出す。 彼は笑うに笑えない。 恭弥がコンビニを出る瞬間、ふとおっちゃんが独り言を零す。 「あのおっちゃんはなんの話をしていたんだろうか……?」 実は以心伝心をしていたらしい。 お互いに心でおっちゃんと呼び合い、お互いに相手のセリフを疑問に思っていたと。 あぁ、偶然だねぇ……、と心で呟きながら車のドアを開けて運転席に乗り込む。 「はぁ……、これから仕事か……」 助手席側に無造作に置かれたのは、誰でも知っているらしい昔ばなしの『桃太郎』である。 何故らしいと付け足したのかは、恭弥がこの『桃太郎』という物語を読んだのがつい最近だからだ。 なんで桃太郎を知らない人生を歩みながら、最近桃太郎を知ったのか。 これから彼は小学校へ出向いて読み聞かせ会で、読み聞かせをする側になるから。 題目は桃太郎と、この様な経緯である。 「桃太郎か……」 ――桃から生まれた桃太郎は、きび団子で奴隷を創造し、犬と猿と……なんだっけ?とりあえず鳥の奴隷3匹で鬼退治をして、鬼を討伐するといった内容だったか、と整理する。 やばいな、知識がまだ曖昧過ぎる、きちんと覚えないと子供達を集中させられない。 だって、こんな空想の物語、価値なんか無いと恭弥は鼻で嗤いたくなる。 まだ、鬼は存在するこの世界で鬼を討伐をさせたという様な空想のお話が残っていることが不自然な話なのである。 「子供は全員で30人。これだけの犠牲があれば魔力も相当な量になる筈。鬼退治への有意義な犠牲になれば良いのだけれど……」 恭弥が読み聞かせをして、子供が彼に集中しているところの命を奪う。 ーーあぁ、子供が大好きなのに。 子供達の将来の為、一部の子供達を犠牲にしなくてはならないなんて、どんな皮肉な運命なのか。 御剣恭弥はただの魔術師……。 鬼を討伐する英雄・桃太郎にはなれない……。 「まあ、どうにかなるっしょ」 しかし、御剣恭弥は30人の子供達を犠牲には出来なかった。 いや、メンタル的なものは関係なく……。 罰当たりとでも告げるかの様に、彼は信号無視してきたトラックと正面衝突の事故に巻き込まれて、死んだ……。
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