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第六話 「夢のようなコーヒータイム」
とにかくそんな当時の葛藤してた頃を思い起こしてる自分と、今目の前に
居る裕子さんと話してる自分が対峙しているみたいで、当時の自分と今の
自分が交互に交錯している様相は、せっかく和やかな雰囲気を壊して白け
させてしまい沈黙の時間が流れ出したらと、ハッと今、我に返った。
僕は慌ててその場を苦笑しながら適当に“ケーキ美味しいね“と下手な
言葉でその場を繕った。
今の自分が昔の自分と裕子さんで挟み撃ちになるのだけは避けなければ。
今、目の前にあの憧れの初恋の人、裕子さんが居る。
裕子さんと二人でコーヒー飲みながら懐かしい中学時代の話をしている。
信じられない!本当にこれは夢か?いや夢なんかじゃない!
あんなに会いたかった裕子さんと二人っきりで話をしているなんて。
いつも心のどこかで裕子さんの事を思っていた。
40年間も頭から離れた事は無かった。
それが今、目の前に!僕は夢を見ているのか?本当に信じられない。
あの時、ゆうこさんに言いたかった事を今直ぐにでも告白したい!
でもやっぱり気が小さくて純情で恥ずかしがり屋の僕には出来ない。
「好きだ!裕子さんが大好きだ!!」
「君は僕の初恋の人だったんだ」~そう言えたならどんなに良いだろう。
いつの間にか再び沈黙の時間が流れ出したのを、裕子さんが喋り出した。
「ねえ、小川君って、可愛かったわ」と、いきなり言われたのだ。
「えっ?ほ、ほんと・・・照れるなあ~」僕は慌ててそう応えたけれど。
でもよく考えたら嬉しいというか、男として“可愛い”と言われたらなあ、
やっぱり異性として見てくれて無かったんだ~と思ったら、何かガッカリ
してしまった。
「でも今の小川君、カッコいいよ」裕子さんは続けてそう言ってくれた。
彼女なりの僕への慰めの御世辞なのか?解らなかったけれど。
「無理しなくていいよ、こんなしょぼくれ爺さんだよ」と僕は謙遜した。
「ほんと、ほんとだって、メタボじゃ無いし髪も短くカットして凛々しい
感じがするよ、まぁ少し髪は薄くなったけどね、アハハ」
「でもどこか子供っぽいところがあって、やっぱり小川君らしいよね」
「そう~?ありがと、何でもいいよ、僕なんか」と一応謙遜っぽく応えた。
僕に子供っぽさがあると彼女が言った事が何故か不思議にも安堵感を得た。
だって“男として”見ていたら、こんな風にお茶に誘っても付いて来ては
くれなかったかもしれないと勝手に想像した。
子供っぽさが漂う、あの頃の面影が残っていて、だからこそ安心して僕に
付いて来てくれたんだろうと、この時、思った。
「どこか具合悪くないの?少し頬が扱けてるのが心配だわ」
彼女が僕の体調を心配する様に気遣ってくれた言葉がとても嬉しかった。
「うん、大丈夫だよ、ありがとう、歳のせいかな」と僕は言った。
「そう、良かったぁ」ニコニコしてる彼女を見て幸せな気分になった。
その時、背中のみぞおち辺りがまたチクチク、ズキンと痛みが走った。
「余りに嬉しくて緊張したからかな、ワクワク、ドキドキしてるし・・・」
膵臓の持病が再発して悪化している事は裕子さんには言わなかった。
「ねえ、加代ちゃんを憶えてる?小川君の事が好きだったんだよ」
「えっ、う、うん、そうだったみたいだね・・・」
「でも小川君は余り振り向いてくれなかったと、こぼしていたよ」
「い、いや、そうでも、な、ないけ、ど・・・」
冷や汗を掻きながら僕は心の中で叫んでいた。
「僕は君の事しか見ていなかったんだ!裕子さんが大好きだったんだ!」
何度そう言いたかったことか・・・
今、ときめいている、胸がドキドキしている。
だけど裕子さんの居る教室の前を通るたびに顔がぽーっと真っ赤になり
慌てて走り抜けて行ったあの頃よりは少しだけ落ち着いている。
少しだけ大人になったのかなぁ~?なんていい歳をして阿呆な事を言って
いる幼稚な自分が此処に居る、大好きだった裕子さんと今一緒に!
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