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 手前にはそれらしき人間の姿は一切ない。それにも関わらず、真っ白な壁に異様に細長い影が揺らめいているのだ。  影はシルクハットのようなものを被っているようだった。すでに初夏に向かう季節だというのに、コートらしきものを着ているようだ。  おかげで体型や髪型は分からない。  横向きのシルエットから分かるのは、やけに高い鼻がついているということ。そして、袖から出ているであろう手には、鋭く長い爪らしきものがあるということだった。  影はゆっくりとした動作で二人が走っていった方へと動いていた。 「なに……あれ……」  無意識に呟いた声が、シンと静まり返った室内に、やけに響いた。咄嗟に口を手で覆う。けれど、既にゲームを降りた身であることを思い出し、藤枝が苦笑した。 「アイツ(ミッドナイトマン)は、私の存在なんか、気にしてないっちゅーの」  再びカメラを覗く。扉の向こうの壁には既に、不気味な影の姿はない。異形の者を目にしていても、ここまで落ち着いていられるのは、藤枝がゲームを降りた立場――すなわち、当事者ではなくなったことが大きい。
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