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その5
その5
「…ズタ袋から出した時にふと見た猫の眼…。それがこっちの目に焼き付いて離れなかったんだ…」
お父さんはその日以降、川から引き揚げてびしょ濡れだった猫の”眼”に怯え続けることになりました。
なにしろ、目を閉じると”その眼”が瞼にくっきりと生々しく映り、夜眠ることすらままならない日々が続いたそうなんです。
「…そのうち、犬でも鳥でもみんな同じ眼に見えてきたよ。数カ月すると、もう焼き魚の死んだ眼も正視できなくて、食膳の前で吐いたりしてな。半ばノイローゼになってた」
私はここで、儀式に加わった他の仲間はどうだったのかを尋ねました。
すると…。
「みんなもノイローゼ状態だった。だが、それぞれなんだ。俺と同じ眼で苦しんでたのは一人だった。あとは鳴き声が二人と、臭いが一人だった。鳴き声に苦しんでた奴なんか、白昼、道端で散歩に連れられた犬が、”ニャンニャン”って吠えてる幻聴に襲われてたよ」
そこでお父さんたちは、全員の家族の前に揃って、節分の儀式をやったことを白状したしたそうです。
なかには、その儀式のことを全く知らない親もいたそうですが、おじいちゃんから儀式の話を聞いた悪ガキ連中の家族は深刻に捉え、地元の老人の人伝で、ある霊能者に相談することにしたんです。
...
「その霊能者の人、結構若い女性だったんだけど、今なら川への供養で何とかなると言ってくれたんだ。それで、さっそく川原で供養を施してもらった。ところが、実際に現地で施術した後、ここはキャッシュが深いと言ってね…。要するに、業やら念やらがごっちゃになって川の流れのもっとも淀んでいるのが、ちょうどこの辺りだっていうことだった。つまり、負のパワーが強いって言うんだ」
そこで霊能者の人は、今後3年に一度、必ずここで手を合わして供養の念を唱えることを指示したそうなんです。
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