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その6
その6
「お父さんはその後、3年に一度の節分の日にはそれを続けた。その結果、動物の眼が恐い気持ちは残ったが、眠れないとかまでのことはなくななったよ。…やがて結婚して清子が生まれた。あの頃は生活も安定していたし、健康面の不安とかもなくて文字通り毎日が幸せだった」
この父の言葉は、娘である私にはすんなり伝わるものがあります。
私が物心ついた時は、本当に温かい家族のぬくもりに包まれていましたから…。
「…人間はそんな環境で日々を過ごしていると、ふと、ささやかな有難味を忘れがちになるんだな…。喉元過ぎて熱さってのもな…。ある年、3年に一度の供養をすっぽかしてしまったんだ…」
「お父さん…」
思わず私の口からその一言だけが漏れました。
この時、ベッドの中の父は両目を塞ぎ、口を真一文字にして沈黙してしまったのです。
しばらくすると、瞼を閉じた目からは涙がこぼれ落ちてきました…。
...
「…清子が4歳の年だった。知っていたんだ、…その年の節分が3年目だっていうことは。だが、なぜか別にいいやって…、当日になってそんな気持ちがお父さんを…、占領してしまった。そんな感じだった。清子…、その報いは…、ちゃんとめぐってきたんだ!」
父は涙声で、俯きながら絞り出すように必死で語ってくれていました。
「お父さん…、それは何だったの?その報いって…」
気が付くと、もう涙が止まらない状態の父の手を両手で握って、私はせっつくように言いました。
その時、”それ”を早く知りたい気持ちが抑えきれなかったのです。
...
「清子も”事実”としては承知しているが、その時、お母さんの身ごもっていた妹の奈津子が死産した。…そのことだよ」
私は、ハンマーで思いっきり殴られたような衝撃に襲われました。
私には4歳下の妹がいた…。
でも、お産で死んだ…。
父が言うように、事実として私はそのことを、自分の中で消化してきました。
これまでずっと…。
でも、”報い”という残酷な言葉の響きが、今まで私がそう捉えてきたことを根底から否定された思いに覆われたのです。
それは一瞬にして…。
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