1座目 星座占いと告白

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わかっていたことだが、どうにも自分には数学の才はないらしい。 黒板の板書をひたすら写すので精いっぱいで、 頭に入っては来ていない。 これでは授業で定着しているとはいいがたいだろう…。 「よし、今日の授業はここまでにしよう。」 そういった教師の言葉とほぼ同時に、学内に解放を告げるチャイムが鳴る。 教師が退出した後、 教室は各々の授業終了に対する安堵感が混じった喧騒に包まれた。 自分が理解できないのではなく、そもそも数学は難しい。 わらわらと動く生徒たちは皆口々に「やっと終わった」と言っているだろう。 …そうやって自己を正当化するしかないとは我ながら情けない。 せめて国語なら集中して話が聞けるのだけれども…。 わからない部分はユキに手伝ってもらうことにしよう。 自身の頭脳の限界を感じながら、スマートフォンを取りだす。 新規の通知はなかった。今朝送ったメッセージを香織は見ただろうか? すると… ドア付近に移動していた今月さんに話しかけている 見慣れた姿の女子生徒を発見した。 「あ、あの…兄さん…じゃなくて、華落秋人を呼んでいただいてもよろしいでしょうか?」 「華落君?」 今月さんがこちらに向き直り、歩を進めようとしている。 その後ろ手に見える香織の姿で察して弁当を1つ掴みドアへと近づく。 「あ…今、華落君を呼ぼうとしたの。」 「う、うん。今月さん、ありがとう。」 芯の通った綺麗な声に少し緊張しながらも平静を装い謝意を伝える。 今月さんは軽く微笑むと教室の外へと出ていった。 「…別に来なくても後で香織のクラスに持って行ったのに」 「に、兄さんが来るとクラスの子に説明するのとか面倒かなって…」 それは逆の立場でも一緒なんだけどね。 現に今、クラスから向けられる好機の目を背中にひしひしと感じていた。 しかし、上級生のクラスに来ているからなのか 今朝の傍若無人っぷりがまるで嘘のように引っ込んでいた。 「ほら、これ。次からは忘れないようにね。」 「う、うん。…ありがとう。」 そう言ってちらちらと自分と教室の中を見比べる香織。 そんなに緊張するのか…? よく見ると朝慌ててセットしたにしては綺麗に髪が整っているな。 それに何度もスカートの裾を直している。 …あぁ、なるほど。 「…ユキ呼ぶか?」 「…!?…いや、そういうんじゃ!」 こっちにわざわざ来た理由もこれか。 僕はすぐにユキのもとに行き声をかけた。 「お、香織ちゃん!こんにちは。」 「こ、こんにちは!柊木先輩!」 しきりに触っていた自分の髪をさらに撫でまくる香織。 「はははっ、別にわざわざ呼び方変えなくていいのに。」 「う…で、でも今は先輩後輩ですし…。」 「俺にとって香織ちゃんは香織ちゃんだけどね。」 そういって短めの香織の髪を優しく撫でるユキ。 こういうこと平気でできるあたりがモテる秘訣だったりするんだろうか? 僕は百回生まれ変わってもできそうにない。
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