1座目 星座占いと告白

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「あっ…ふふふっ…でも少し…恥ずかしいですね。」 何気なく髪をなでられた香織は頬を赤らめ、 けれどどこか幸せそうな顔で笑っていた。 実兄の前ではこんな姿はなかなか見せないというのに…。 自分より慕われているんじゃないか? 「アキからお弁当もらいに来たのか?」 「はいっ!そうなんです、今朝ちょっと寝坊しちゃって…。」 「香織ちゃんらしいといえばらしいね。  何か理由なくてもいつでも遊びに来ていいんだよ?  俺もアキもいつでも歓迎だ!」 「は、はい!嬉しいです!」 心底嬉しそうに笑顔を咲かせる香織。 香織は昔からユキのことが好きだ。 それが恋愛の慕情なのもわかる。長年兄としてそばにいるのだから。 普段は生意気だが大切な妹。 幸せそうな姿を見ているとユキを呼んでよかったなと心から思う。 「香織、そろそろ戻らなくていいのか?」 「あ、そうだね…。じゃ、じゃあ兄さん。ありがとね。」 「おう、気をつけて戻れよ。」 構内で何に気を付けるのか自分でも不明だが、 優しい言葉をかけることにした。 「ん…。あ…えっと…。」 「ん?まだ何かあるのか?」 「いやその…今朝の件なんだけど…」 モジモジと言いにくそうに体をくねらす。 ユキに対して緊張してるのではないのは見てわかった。 「帰り、駅前の本屋に寄ることにするよ。甘いものが食べたくなるかもな。」 「あ…。えっと…うん!…ありがと、じゃあね!」 何かを感じ取ったのか、嬉しそうに駆け出して行った。 今朝のたわいもない喧嘩を気にしていたらしい。 香織は素直になれないことがある。 悪いと思って謝ってくれる姿勢を見せてくれる。それだけで十分だった。 こういう部分が憎めない。 『普通にいい子』と言うのはユキと同意見だが、 それ以上に人の気持ちに対してはしっかりとしている自慢の妹だ。 香織の後ろ姿を見送ると、 入れ替わるように今月さんが教室に戻ってきた。 なんとなく目が合う。 「…ふふっ、あの子、華落君の彼女?」 「…えっ!?ち、違うよ!妹!」 「ふふふっ。なんでそんなに必死なの?」 「あ、いや…えーっと…。」 「わかってるよ。『兄さん』って言いかけてたもの。」 ころころといたずらっぽく笑う今月さん。 他の女子生徒にはよく見せていたけど、 自分にもこんないたずらっぽい笑顔を向けられるとは思ってなかった。 思わず見入ってしまうくらいの微笑だった。 そんな綺麗な微笑を僕に残し、彼女は静かに自席に戻っていった。 「アキはほんとにシスコンだな…。」 茶化してくるユキをよそに、 少し火照った頬を軽く手で仰いで冷ますことにした。
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