1座目 星座占いと告白

7/21
前へ
/130ページ
次へ
2時限目…。 「えー、ローマ帝国時代は紀元前146年にローマが…」 白髪の目立つ世界史の教師の言葉を耳にしながら ふと今月さんのことが気になりちらりと盗み見る。 透き通るような大きな目に二重瞼、 血色の良いきめ細やかな柔肌、 自然に色づいた唇など、 その一つ一つを「綺麗」とだけで片づけてしまうには あまりにも稚拙な表現だろう。 1ヶ月ほどで教室の人たちの様子は変わっている。 新学期の頃より「馴染み始めた」という表現が正しいだろうか? 当初は各々が初めて一緒のクラスになった人たちに対して 慣れない距離を測りかねている様子だった。 以前に同じクラスだったもの同士で固まりあうという微妙な距離感。 しかし、一緒に過ごすうちに徐々に新しい友好関係を気付き始めている。 まるで角砂糖が少しずつ、ほろほろとコーヒーに溶け合うように。 現にこの世界史の授業ではひそひそと小さな声で 友人同士会話する声があちらこちらで繋がっている。 白髪の老教師はそんな声を知ってか知らずか淡々と授業を続けている。 そういえば…今月さんは最初から人との距離感が上手だったように思える。 僕に対しても、ユキに対しても 男子生徒に対しては普通に挨拶をする仲。 女子生徒に対してはそれより数歩近づいたような砕けた仲。 可愛らしい容姿とは裏腹に 教室での印象は『目立ちすぎず根暗すぎず』。 まさしく自然といったところ。 けれど、そんな彼女の姿に自分はどこか違和感を感じていた。 はっきりと何に違和感を感じているのか、 その正体は自分でもわかっていない。 僕がこんなにも彼女の事が気になるのはそんな違和感からかもしれない。 心や情景を『想像』する。そんな自分の悪い癖が蠢いてる。 情景ならまだしも、心まで他人に勝手に測られるなど とてもではないが良い事とは言えないだろう。 まさしく『余計なお世話』である。 「……?」 「……っ!」 彼女のことを盗み見ながらそんなことを考えていると 視線が交差してしまった。 思わず息をのむ。 「……ふふっ、聞いてないと怒られちゃうよ?」 「…う、うん。ごめん。」 そう言って微笑んで優しく注意する今月さん。 どうやらちらちら見ていたことは悟られていないようだ。 感じていた違和感も恥ずかしさで上書きされてしまい、 僕は素直に黒板を書き写すことにした。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加