1座目 星座占いと告白

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昼休み…。 僕は一人で1冊の大学ノートを脇に抱え屋上への階段を上っていた。 昼休みの屋上には人がほとんどいない。 屋上は広いが球技や駆け回ることは禁止されているし、 特にベンチなどが整備されているわけではない。 新学期は新入生が物珍しさで来る場合も多かったが、 平たく言うと何もないので徐々に飽きてきたようだ。 キィーと金属を軋ませ扉を開けると、屋上には誰もいなかった。 本を読むには図書室でもよい。 昼食を誘ってくれたユキに図書室に行くと わざわざ嘘をついてまでここに来た。 それには理由がある。 「さて…」 弁当の包みを開けながら、同時に持ってきた大学ノートを広げる。 人物の特徴・性格・相関図や舞台の世界観などが びっしりと書き込まれている。 物語のプロットというやつである。 これは自分が書いたノートだ。僕の考える小説がここに詰まっている。 しかし、びっしりと書き込まれたその設定の数々は どれもすべてが未完成のままだった。 僕が実は小説を書いていることは誰にも言っていない。 家族にはもちろん、ユキにすら言っていない。 僕は自分で作ってしまうくらい小説が好きだ。 小説の中には作者の夢や希望、あらゆる『想像』が詰まっている。 設定を知るたびにワクワクし、登場人物と一緒に一喜一憂する。 17年間生きてきた僕にとって、本を読む以上の楽しみはなかった。 僕は今朝の星座占いを思い出す。 『今週の貴方は最高の1週間になるでしょう!  自分から積極的に行動するといいことが次々舞い込んでくるかも?』 自分から積極的にとは違うかもしれないが、 自ら行動するという言葉で真っ先に思い浮かんだのは 『小説を一本書ききる』 これだった。 僕は今まで一本として書ききれた試しがない。 頭の中のイメージを文字に起こすことが難しく、 書けば書くほど偉大な小説家たちと比較してしまい 自分の文章が嫌悪感に苛まれてしまう。 本を読むだけ読み漁ってきた知識とプライドが邪魔をして 僕が生みだした登場人物や世界を 自らの手で全部なかったことにしてきた。 もし本当に最高の1週間になるのだとしたら…。 最高の設定・最高の展開を形にすることができるかもしれない。 そんな期待を込めて僕はお弁当を食べながらノートに筆を走らせた。
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