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「…はぁ…はぁ」
駅から学校までの道のりを約10分間走り続けた。
時刻は大体17時半。
今朝の空はまだ青色を覗かせていたが、
いまや灰色が濃く広がっていた。
キィーと重厚な屋上の鉄扉を開く。
その重たさは本当に煩わしかった。
「はぁ…ふぅー…」
上がりきった息を整える。
昼と同じく屋上は静寂に包まれていた。
僕は自分が座っていた場所に目を向ける。
そこには…
「………あったぁ。」
開きっぱなしのノートがあった。
風で捲れてしまって真っ白なページを見せていた。
少し付着していたアスファルトの欠片を手で払い中身を確認する。
深い安堵の息が口から漏れ出した。
気が気じゃなかった心が徐々に落ち着いていく。
叶うのであれば二度とこんな思いはしたくない。
とりあえず戻ろうと思ったその時、
キィーと音を立てて鉄扉が開いた。
「……っ!!」
僕は慌てて侵入口の貯水タンクの裏手に隠れた。
…なぜ隠れてしまったのだろうか。すぐに後悔した。
反射的に自分の秘密がばれると思ったからか、
考えるよりも先に体が動いてしまった。
それくらいノートを忘れた動揺は僕にとって大きかった。
軽い足音が一つ。姿は見えないが女の子だろうか?
「今日は曇りかぁ…。」
透き通るような芯のある声…。この声どこかで…。
というか…別にやましいことしているわけじゃないし
今出て行っても問題ない気が…。
キィー…。
僕が裏手から顔を出そうとするとまた鉄扉が開く音が…。
最悪だ…なんてタイミングの悪い…。
おとなしく元の位置に戻る。
「あぁ…もう来てくれてたんだね。」
次に聞こえたのは男の子の声。
親しげな話声…知り合いだろうか?
余計に出ていきづらくなった。
「あっ…はい。えーっと、ユリの彼氏さん…でしたよね?」
「あー、うん、君にとっての俺はそうだよね。」
ユリ…?知らない名前だな…。
様子が気になり好奇心に負けて覗くことに。
2人の男女が曇天の下にいた。
男の子のほうは雰囲気から…年上だろうか…?
女の子は…あれ…あの長い黒髪…。もしかして…今月さん?
「えっと、それで…ここに呼び出した理由は何ですか?」
「あー、うん、えーっとね…俺ユリと別れることにしたんだ。」
「…あっ、そうなんですね…。」
…呼び出した?この時間に?人気のいない屋上に?
これ…もしかしなくても…
「だから、美並ちゃん。俺と付き合ってくれないかな?」
「…えっ?」
……勘弁してくれ。
僕は音を立てないように腰を下ろした。
他人の告白現場。しかも相手がクラスメイト。
この状況に居合わせたい人間などいるのだろうか。
もう本当に…本当にやめてほしかった。
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