プロローグ

2/5
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
『人間が想像できることは、人間が必ず実現できる』 - ジュール・ガブリエル・ヴェルヌ - これはある小説家の有名な言葉だ。本の虫である僕の座右の銘でもある。 といっても、別に僕自身は小説を書いたり何か作ったりする人ではない。 でも、創作者でなくてもこの言葉にはロマンがある。 自分は何も持たざる者だけど、劇的な何かがこの世界にはきっとあって…。 そしてその劇的な展開を謳歌できる人がいて…。 例えば… 弱小野球部が絆や努力で奇跡を起こし勝ち上がっていくような… 例えば… 病弱な少女が恋に落ちて、彼と2人で困難を超えていくような… 例えば… 新学期早々のこの曲がり角で美少女転校生とぶつかるような… 「…っと」 「…!」 右足に力を入れブレーキをかける。 通学中、本を片手にそんな風に物思いに耽っていると 危うく曲がり角で人とぶつかりそうになった。 「……」 「…すみません…」 会社へ向かう男性だろうか…? 曲がり角でぶつかりそうになり会釈し謝意を伝える。 男性は特にこちらに何も言うことなく忙しそうに歩いていく。 男性のぶっきらぼうな態度に少しやるせなくも感じたが、 ボーっと歩いていたので自分が悪いのだろう と自らに言い聞かせる。 …現実はそんなに甘いものではない。 そもそも女性ですらないし、実際はぶつかる前にこんな風に回避するだろう。 だけどきっと…そんな耽った『想像』がどこかにあると信じて… 4月8日。 麗らかな陽気とやや涼しみを帯びた風が 残る寒さを惜しむように白桃色の花弁を舞い上げた。 「今年こそは…!」 物語の主人公のような、起伏ある劇的な生活を送りたい…。 雪のように舞うそれを見つめながら新学期に期待を膨らませた。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!