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「えーっと…それは男女交際で、という意味でしょうか…?」
「え、うん…。もちろん。」
今月さんは意外にも素っ頓狂な発言をした。
この状況下での『付き合う』には他の意味はないだろう。
聞いてはいけまいと思いつつ、耳を立てる。
この状況がバレたら最悪だが、バレない分には問題ない…。
僕はそう自分に言い聞かせた。
居合わせたい状況では決してないが、
僕は自分の中の黒い好奇心を抑えられなかった。
「…う、うーんと私実は…既に付き合っている人がいるんです。」
「…え?」
……え?
その発言には僕も驚いた。
だが、冷静に考えたら今月さんほど可愛い人に
彼氏がいないっていうのもおかしな話だ…。
途端に胸の中を締め付るような苦しさが僕を襲った…。
なんだというんだろうか…。
出会って1ヶ月の憧れの可愛いクラスメイトに
彼氏がいて少しショックを受けるなんて…。
なぜだか息がしづらかった…。
「だから…その…ごめんなさい。」
「あ…いや、いいんだ。こっちが勝手に盛り上がってただけだから。」
断られたその先輩っぽい人の言葉は
まるで自分の気持ちを代弁しているようで聞いていられなかった。
「あの…ユリとは…なんで別れたんですか?」
「…え?」
「あぁ…いや、少し気になりまして…。」
「…いや、美並ちゃんを好きになったからとかそんなんじゃないよ。
ただ…あまり馬が合わないなと思うところが多々あって…」
「そ、そうですか…。」
少しほっとしたような今月さんの声。
…まぁそれはそうか。
友人?の彼氏だった人に告白されたのだから
やはりその手の人間関係に支障が出るか気になるのだろう。
…彼が本当のことを言っていれば、だけど。
「その…このことはユリには…」
「も、もちろん言わないよ!
というかそもそも美並ちゃんに告白すること自体誰にも言ってない。」
「…そうですか。」
数分の沈黙。
纏わりつくような湿気はあるのに居心地悪く冷えた空気が漂っていた。
発言の焦り方からみても
どうやら先輩のほうもそのあたりは弁えているらしかった。
ひそかに今月さんに対する恋心を育ててきたらしい。
「あの…それじゃ俺、もう行くね。」
「あ…はい、すみません。」
「ん…じゃあ…また。」
すたすたと足音が聞こえる。僕は慌てて息を押し殺した…。
そしてキィーという金属音とともに先輩は屋上から去っていった。
「………」
今月さんはどうやらまだ屋上にいるようだった。
まずいな…これは…。
「どうやって出ていこう…。」
小さく小さく呟いて、気味悪く漂った空気を吸い込んだ。
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