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「ほんっっっとに…もう!」
叫びにも似た声が今月さんから発せられた。
聞き違いか?とそんな都合のいい疑いが頭の中に浮かぶ間もなく
間髪入れずに今月さんは言葉を続ける。
「これじゃ何もかも台無しじゃん!
本当に勘弁してよ…ずっとうまくやってきたのに!」
うわぁ…僕は今すごいところを見ちゃってるんじゃなかろうか…。
普段の微笑みからは想像できない悲痛な叫び…
怒りなのか悲しみなのかわからない感情がどんどん漏れ出している。
「だいたいユリの彼氏とは数回しか対面してないじゃない!
告白の件は誰にも言ってないって…本当かどうかなんてわからないし!
特に印象的な会話だってしてないのになんで!」
まるでその感情に呼応するように横風が吹きつける。
結った髪が狂ったように風に煽られていた。
「…そう、そうよ!印象的な会話してないわ!
だから向こうが勝手に好きになっただけ…。
ユリには何もしてない。…だから…だから?」
テンパってるのか整理がつかないのか頭を悩ませる彼女…。
「いや、待って…本当に誰にも言ってないのだとしたら
このことがバレることは…ない。……ない…よね?
ユリ…そうだ、いつ別れてその原因をユリに聞かないと!
…あぁ、でも余計な詮索して万が一バレたら…?
いやでもクラス違うし…なんとか…」
スマホを取り出してはしまい、取り出してはしまいを繰り返している。
後ろに映えるフェンス越しの曇天が彼女を包む。
長い髪やスカートの裾を巻き上げるような風は
嵐のように徐々に強くなってきていた。
「あぁっ…もう!
何のために程よい距離で接してきたと思ってるの!
去年あんなに…カラオケもショッピングも…
行った行かなかったの計算を何回したと思ってるのよ!」
行った行かなかったの計算…?なんだろうそれは…。
「ユリと仲いい人、今のクラスにいたっけ…?
多分いない…けど友達多そうだから本当にまずい!」
自分で自分の両肩を抱く今月さん。
人間関係を拗らせたらまずいのはわかるがそこまでだろうか…?
そこから感極まってしまったのか叫びは大きくなる。
残った心の内をすべて吐き出すように…。
「だいたい…好きって何よ!恋とか愛とか何よ!
わかんないし!わかりたくもないし!
なんで告白してくんのよ!もう終わった!本当に終わった!
これじゃ…これじゃまるであの時と」
あの時?言葉の先が気になって乗り出したその時…
パラララッ…
屋上をひと際大きな風が…
強く、悲しげに、そして最悪のタイミングで…
端から端まで吹き抜けていった…。
手に持ったノートがその悲痛さに応えるように紙音を屋上に響かせていた。
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