1座目 星座占いと告白

20/21
前へ
/130ページ
次へ
「……はぁ。」 「……。」 目に見えて落ち込んでいる今月さん。 自分のせいでこんなになってしまっているのは明らかだった。 そして…今月さんにこんな顔をさせている自分が嫌になった。 …他人の秘密を『そんなこと』と一蹴するのは絶対に違う。 僕も小説を書いていることを秘密にしている。 他人に話したらきっとそんなこと…と思うのだろう。 でも僕にとってそれは、誰にも知られず秘めたいことなのだ。 恥ずかしいというのももちろんある。 だけどそれ以前に… 「あの…さ…」 「……?」 小首を傾げる彼女。僕は意を決して言葉を続ける。 「そのノート…僕が考えてる小説がいくつもあるんだ。」 「……そう。」 興味なさげに応える。 きちんと返してくれる当たり、根から悪い人には思えない。 「誰にも…本当に誰にも言ってない僕の秘密なんだ。」 「……それをなんで私に?」 「そのノート、預かってもらえないかな?」 「えっ?」 驚いた表情をする今月さん。そりゃそうだ。 いきなり小説書いてます、持っててください なんて言われたら僕だって同じ顔をする。 「別に…もらっても…読んで感想を聞かせてほしいってこと?」 「ううん…違うんだ。僕が今月さんのことを誰かに告げ口したら…」 「……?」 僕は断腸の思いで言葉を絞り出す。 「そのノートを誰かにバラしてしまってもいい。僕の名前を出して。」 「…え?」 さらに驚いた顔を見せる彼女。 「…秘密なんじゃないの?  というか小説って見せるために書くものじゃないの…?」 「僕はこっそりと小説を書いてきた。そこに自分の世界を広げて…。  僕の『想像』…いや、『妄想』の世界がそこには入ってるんだ。  開いて見てもらって構わない。嘲笑ってもらって構わない。  ずっと秘密にしてきた。…ずっと…うまくやってきたんだ。」 「…共犯にさせるつもり?」 「ううん…そんなつもりじゃ決してないけど…これで…  君の秘密に触れてしまった僕を許してくれないだろうか…?」 僕の本心だった。 秘密を知られるということは恥ずかしい以上に… この上なくつらい事でもある。曝け出せるならとっくに出してるんだ。 その秘密を他人がどんな風に軽く見ようと、本人にとっては一大事なのだ。 他人の大事なものに不用意に触れるのは… この上なくひどい行為だと思う。 僕は今月さんの叫びを耳を塞いで聞かなかったことにもできた。 そうしなかったのは黒い好奇心からだ。 今月さんの心を『想像』しようとした悪い癖があったからだ。 これで…僕の秘密で… 今月さんの気持ちが少しでも楽になってくれるのであれば… そう思ったが故の行動だった。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加