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「……はぁ。」
「……。」
目に見えて落ち込んでいる今月さん。
自分のせいでこんなになってしまっているのは明らかだった。
そして…今月さんにこんな顔をさせている自分が嫌になった。
…他人の秘密を『そんなこと』と一蹴するのは絶対に違う。
僕も小説を書いていることを秘密にしている。
他人に話したらきっとそんなこと…と思うのだろう。
でも僕にとってそれは、誰にも知られず秘めたいことなのだ。
恥ずかしいというのももちろんある。
だけどそれ以前に…
「あの…さ…」
「……?」
小首を傾げる彼女。僕は意を決して言葉を続ける。
「そのノート…僕が考えてる小説がいくつもあるんだ。」
「……そう。」
興味なさげに応える。
きちんと返してくれる当たり、根から悪い人には思えない。
「誰にも…本当に誰にも言ってない僕の秘密なんだ。」
「……それをなんで私に?」
「そのノート、預かってもらえないかな?」
「えっ?」
驚いた表情をする今月さん。そりゃそうだ。
いきなり小説書いてます、持っててください
なんて言われたら僕だって同じ顔をする。
「別に…もらっても…読んで感想を聞かせてほしいってこと?」
「ううん…違うんだ。僕が今月さんのことを誰かに告げ口したら…」
「……?」
僕は断腸の思いで言葉を絞り出す。
「そのノートを誰かにバラしてしまってもいい。僕の名前を出して。」
「…え?」
さらに驚いた顔を見せる彼女。
「…秘密なんじゃないの?
というか小説って見せるために書くものじゃないの…?」
「僕はこっそりと小説を書いてきた。そこに自分の世界を広げて…。
僕の『想像』…いや、『妄想』の世界がそこには入ってるんだ。
開いて見てもらって構わない。嘲笑ってもらって構わない。
ずっと秘密にしてきた。…ずっと…うまくやってきたんだ。」
「…共犯にさせるつもり?」
「ううん…そんなつもりじゃ決してないけど…これで…
君の秘密に触れてしまった僕を許してくれないだろうか…?」
僕の本心だった。
秘密を知られるということは恥ずかしい以上に…
この上なくつらい事でもある。曝け出せるならとっくに出してるんだ。
その秘密を他人がどんな風に軽く見ようと、本人にとっては一大事なのだ。
他人の大事なものに不用意に触れるのは…
この上なくひどい行為だと思う。
僕は今月さんの叫びを耳を塞いで聞かなかったことにもできた。
そうしなかったのは黒い好奇心からだ。
今月さんの心を『想像』しようとした悪い癖があったからだ。
これで…僕の秘密で…
今月さんの気持ちが少しでも楽になってくれるのであれば…
そう思ったが故の行動だった。
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