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………
…
3時限目。現代文の授業。
キーンコーンカーンコーン。
「よし、今日はここまでにしよう。」
チャイムが鳴って授業が終了する。
バラバラと生徒たちが立ち上がって各々の時間を過ごす。
やっぱり『銀河鉄道の夜』は何度読んでもいい。
作者の宮沢賢治は今やだれもが知る有名作家だが、
生前は全く評価されていなかったらしい。
有名な画家などもそうだが、
生前はなぜか評価されないことが多い。
無名が故に知られずに
生涯を終えるのはどれほどのものなのか…。
そんな知識を思い出しながら教科書を閉じると
不意に教壇にいた先生から声をかけられた。
「華落、ちょっといいか?」
「はい、なんでしょう。」
席を立ち教壇に向かう。
「今日の図書委員、担当お前だったな。
悪いが先生は今日早めに帰らなくてはならないんだ。」
「あ、はい。わかりました。戸締りしておきます。」
「あぁ、助かる。」
現代文の九十九先生は図書委員担当の先生だ。
昨年度から図書委員なので知った仲だが、
現代文の先生で『九十九』という名前は何かと皮肉が効いている。
「カリキュラムとはいえ宮沢賢治は退屈だろう。」
「いや、そんなことは…。」
「昨日『今月』と何か話していただろう。」
「えっ、バレてたんですか。」
「教師だからな。こそこそした『人』の話し声くらいわかる。」
ちらりと先生が今月さんのほうを見た。
僕も目線を向ける。今月さんもこちらを見ている。
…なぜ?
「お前には普段から助けられてるからな。大目に見てやる。
……『仲がいい』のは勝手だが、他の先生の前では気を付けろ。」
「ははっ…すみません…。」
「…華落君!」
「わっ!!」
背後から声をかけられて体が飛び跳ねる。
「先生、彼を借りてもいいですか?」
「…話は済んだから構わないが。」
「ありがとうございます。」
「……っ!」
ふと視線を彼女の手元に移すと片手には僕のノートがあった。
そして柔らかな微笑み。
しかし、それはどこか冷たく見えて血の気が引いた。
「華落、じゃあ放課後は頼んだ。」
「…あっ…は、はい。」
「……?」
そういって九十九先生は出ていった。
最後には僕と今月さんを交互に見て首をかしげていた。
「え、えーっと…何かな?今月さん…。」
「現代文でわからないところがあったから聞こうと思って。」
そういって教壇で僕のノートを開こうとする。
「わ!ちょ、ちょっと!」
「あぁ、間違えちゃった。」
そういって背を向け席に戻ろうとする彼女。
チラリと顔だけ振り返り、無感情な視線をこちらに向ける。
「ついてこい」と言わんばかりの圧力に僕は屈するしかなかった。
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