2座目 創立祭委員と数学

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「そういえばさー。」 バラバラだった言葉の往来の中で、 女子生徒の声が教室に少し大きく広がった。 「去年の今月さんからもらったバレンタインのチョコ、  すごい美味しくなかった?」 「あー、わかる!プロみたいだったよね!」 「……え?」 今月さんは突然出た自分の名前に驚いている。 「今年の出し物、2年生だし食品でしょ?  今月さんに補佐やってもらったらうまくいくんじゃないかな?」 『創祭』は学年で出し物が決まっている。 3年は受験で出し物なし。2年は食品系。1年は展示物やイベント系だ。 しかし僕はそんなことよりも今月さんがバレンタインに わざわざチョコを配っていたことに違和感を覚えた。 「あーそれいいね!美味しいスイーツとか出したら売れそう!」 「そんなに美味いのか?」 「去年絶品だったよー!」 「え?…え?」 明らかに今月さんが戸惑っていた。 おそらく声を上げた女の子には悪気はなかっただろう。 しかし同調圧力を得たクラスの声は止まらない。 ある者は掃きだめを見つけたように… ある者は全く興味なさそうに… ある者は小さな善意と保身のために… 二星さんを取り巻く教壇周りの止まっていた時間も、 彼女の安堵の笑みとともに動き始める。 口々に大きくなったその声々はクラスに一体感を生み… やがて、広がった声はうねる大蛇のように 今まさに貧弱な動物を喰らわんと口を開けていた。 不意に…僕は昨日の星座占いを思い出す。 『今週の貴方は最高の1週間になるでしょう!  自分から積極的に行動するといいことが次々舞い込んでくるかも?』 自分から積極的に行動する…。 そうすることでいいことが次々舞い込んでくる…。 劇的な展開がその先にあるかもしれない…。 隣の今月さんを見ると… 明らかに戸惑って引き攣った『いつもの微笑み』に… 小さな…本当に小さな…『怯え』が見えたような気がした。 「…あの!!!」 僕は衝動的にまっすぐと手を挙げていた。
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