2座目 創立祭委員と数学

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口々に飛んでいた声は徐々に萎んでいく。 うねっていた大蛇の目線はこちらを向いていた。 「…あ、あの…自分がやります!」 「……え?」 今月さんがこちらを向いている。 昨日と屋上で『秘密』(小説ノート)を渡したときと 同じ顔をしていた。 怯えたような彼女を見て衝動的に行動してしまった。 彼女が抱える『程よい距離を取った人付き合い』を守るならこれしかないと。 そう思ったら勝手に言葉が出ていた。 抱えた『秘密』が揺らぐのは…何よりもつらいことだから…。 「…アキ?」 ユキも不思議そうにこちらを見る。 多分、ユキからしたら僕のこの行動は珍しいのだろう。 それは自分が一番わかっていた。 僕は前に出るような… 主人公みたいなタイプの人間じゃない。 教室全体にたくさんの細々とした声が僕に向かって伸びる。 小さな声1つ1つが僕の体を待ち針のように貫いていた。 「華落君。  立候補してくれるのは嬉しいけど、  図書委員の方は大丈夫なの?」 百崎先生が純粋な質問を投げかけてくる。 ごもっともだ。 「ま、毎日あるわけではありませんし、  担当の日さえ外していただければ…。  参加することは可能だと思います!」 「うーん…でもねぇ…。  一部の生徒に負担が偏るのは避けたいのだけれど…。」 眉を顰める百崎先生。やはり難しいか…? いつの間にか僕と百崎先生以外の声がなくなっていた。 「あ、じゃあ俺もやります!」 そんな静寂を破ったのはユキだった。 「自分も演劇部で放課後空いてない時はありますけど、  毎日じゃないんでちょっとずつ手伝います!」 「あら、柊木君。それでいいの?」 「はいっ!」 大蛇の視線が僕とユキにばらける。 「…まぁ、せっかくの立候補だし無碍にする必要もないか…。  二星さんはこの2人でも大丈夫かしら?」 「あ、はい。  人数は多い方がいいので、私もこの2人にお願いしたいです。  あとはまぁ…機材や食材とかの搬入もあるので…  男手は何にしても必要かなと思ってました。」 「ん、わかったわ、ありがとー。」 名簿に何かを記入する先生。 パンパンと手を叩き静寂を払う百崎先生。 「じゃあ、『創実』(ソウジツ)の補佐は2人で決定ね。  とりあえず今日のホームルームは以上!  日直さん、号令お願い!」 日直の気の抜けた号令が響く。 ユキがこっちを向いて小さくサムズアップしている。 同じくこちらも親指を立てる。 大蛇はいなくなり、教室はいつも通りの放課後を迎えた。
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