2座目 創立祭委員と数学

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~ side 美並 ~ キィ…。 鉄扉を軋ませて屋上へ立ち入る。 放課後の屋上の空はほんのりと茜色が交じり、 昼間とは違った色で私を見ていた。 潤んだ香りを持つ梅雨始めの風が力なく頬を撫でる。 私はこの場所が好きだ。 学校内で数少ない1人になれる場所。 「……。」 さっきのホームルームの件を思い出す…。 迂闊だった。 まさか距離感維持のためにイベントに託けて配った チョコレートが自分の首を絞めることになるとは…。 推薦された時は生きた心地がしなかった。 もしあの時、彼が代わりに引き受けてくれなかったら…。 私は『創実』の一員として 誰かと意見を交わすことになっていたかもしれない。 そうすれば、私は『自分の言葉』を曝け出すことになる。 きっとまた昔と同じことになる。 あの時、そう直感したが私は「やりたくない」とは言えなかった。 あまりにも『独り』が長かったからか…。 大きくなった声に怯えてしまった…。 「ははっ…。」 力なく声がでる。 今は『微笑む』ことができそうにない。 「……。」 でも…不思議な感覚だった。 久々に人の善意を感じた気がした。 もしかしたら本当に彼はお人好しなのかもしれない。 私の『秘密』のために面倒ごとに首を突っ込もうとするなんて…。 お人好しは人ではない…。 私は彼の人らしい部分をまだ見ていない。 何か彼の『秘密』が関係しているのだろうか…? そっと彼のノートを取り出す。 中を開いてみたことは一度もない…。 「……。」 開きかけて閉じる。 華落君の『秘密』に触れるのは…まだ気が引けた。 でも、私は彼のことが知りたくなった。 私の『秘密』のために知らなくてはならないのではなく、 私にも…彼のように生きることができるかどうか…。 それを確かめたくなった。 私は空を見上げて目を凝らす。 まだ日は高く、星は見えない。 だけど…見えないけれど…そこにある。 「……あっ。」 この地域の空は夜でも明るくて、 凝らしても星は見えにくい。 日の入りまでかなり早い16時ごろの空。 肉眼で見えるはずなんてないのに… 微かに灯る一番星が見えた気がした。 もうそろそろしたら…図書室に行こう…。
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