1座目 星座占いと告白

4/21
前へ
/130ページ
次へ
「……」 長い黒髪を揺らしながら、美少女が入ってきた。 まるで彼女の従者のように寄り添うその甘い香りは 教室の中にゆっくりと溶けていった。 「…おはよう。華落君、柊木君」 「おいっす!今月さん」 「おはよう…。」 その可愛らしい顔にはおよそ似つかわしくないと思えるくらいの声。 芯の通った綺麗な声で挨拶してくる彼女。 挨拶のために緩めたその微笑みは まるで漫画の世界から飛び出してきたかのようだった。 「相変わらず仲が良いね。何の話をしていたの?」 「あー、この時期に雨が降ると大変だなぁって話!」 「あぁ、確かにそうねぇ、わかるわ。」 「……。」 大袈裟ともとれるほど「うんうん」と頷き、言葉を続ける今月さん。 「暑さもあるし物憂げになっちゃうよね…。」 「今月さんほど長い髪だと大変そうだね?」 「そうねぇ…。」 「……。」 顎に手を当て、何か考えるようなそぶりを見せて 僕の一つ隣の席に着席した。 いそいそと鞄から荷物を入れ替える彼女の所作の一つ一つを なんとなく目で追ってしまう。 しかし、それ以上特に会話はなく、 荷物を入れ替え終えた彼女はスマートフォンに目を落とし始めてしまった。 「……。」 「ところでアキ。なんで弁当箱が2つもあるんだ?」 「えっ…あ、あぁ、これ?  妹の香織の分だよ。今朝慌てて出てったから忘れていったんだ。」 「あぁ!香織ちゃんの分か。」 腑に落ちたといった顔をするユキ。 幼いころからの付き合いなので、当然香織のことも知っている。 そういえば… 「香織はユキと同じ演劇部に入部したんだよね?  部活ではどんな感じなの?」 「お?いっちょ前に兄貴として気になるっての?」 「いや、そんなんじゃなくてなんとなくだよ。」 「別に普通だよ。俺が昔から知ってる香織ちゃんと変わんない。  普通に気配りができてよくやってると思うよ?」 「ふーん…。香織はいい子だな?とかユキはそんな風に感じたりしないの?」 「アキ…シスコンか?別にいつも普通にいい子じゃないか。」 「……ふーん。」 首をかしげるような仕草でからかってくる友人に苛立ちを覚えつつ、 なんとなく妹の様子を確認する。 ユキから見て『普通にいい子』ね…。 妹の名誉と心情のためにこれ以上詮索はしないが、 ユキからの香織の印象は昔と変わらずということね…。 香織、兄は陰ながら応援しているよ。 僕はスマートフォンを開き香織にメッセージを送った。 『弁当忘れただろ?昼休みまでにはそっちに届けるよ。』 そう送ったところで構内に一日の始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加