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「美月ぃ、一緒に帰ろうぜ~」裕樹が声をかけてくる。
「いいよー。じゃこのカバン持ってくれる~?」ニンマリ笑って言うと、
「わかった。じゃお前はこっち持ってな」剣道の防具が入った袋を突き出してくる。
「おぇ~!やだよ!汗くせ~!」私は自分のカバンを取り戻す。
私に声をかけてくる男子は多いんだけどね。ま、いつもこんな感じで、ヒヤカシの種にもならない。
「腹へったなー」
「うん」
校門の脇にはツツジが満開だった。
「この花ってオマエみたいだな」
ツツジの花言葉は「節度」「慎み」。うん、私にピッタリ!か???
「えー、どういうとこが?」
「雨が降っても風が吹いても、いつも元気そうで、しょぼくれたとこなんか見ことないってとこ」
「えー、アタシ人知れず小さな胸を痛めてたりしてんだよ~!」
「もちょっと痩せたいとかだろ!」
「バレたか!」
「果てしなきその元気さが、羨ましいよ」笑って言う裕樹。ちょっと憂い顔だね。
「ん?裕樹、なんか悩んでるとか?」と聞くと
「ヘヘ、なーんも」とごまかす。
「わかった!薫にフラれたんでしょっ!」
「ちがわーい!部活でちょっとシメられただけだよっ!」
強がってる。どうやら図星だったね。
わかるんだよ、私にはね。
「よーし、私が鍛え治してあげよう!」
カバンで裕樹の尻をはたく。
「あっ!なにすんだよー!」と裕樹もカバンを振り回す。
追いかけ合って、走り回って息が切れた。
別れ際に
「なんかオマエの元気がうつってきた。ありがとよ」だってさ。
胸の奥がチクンと痛む。
みんなによく言われるよ。
私はいつも元気そうだって。
どんな時も。
具合が悪くてしんどい時も、
私が落ち込んで悲しい時も、
誰も気付かない。
気付いてくれない。
だけど……
あたしだって辛かったり苦しかったり、
切ない時があるんだよ。
目の前にいるヤツに
分かって欲しい想い伝わらなくて
伝えられなくて
切ない時が。
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