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「……行けない」
「桜?」
「会えないよ。どんな顔して会っていいのか分からない……。今更会いに行ってもきっと許してもくれない」
私の目からは涙が溢れ、ポタポタと地面を濡らした。母親は慰めるように優しく背中をさする。
「お姉ちゃんは許してくれているわ。大丈夫」
涙を拭いながら顔を上げれば、左側に見えるのは墓石だ。いくつもの墓石が均等に並べられていた。
私は十年前姉の実を殺した。あの日五月の今日私達は一緒に買い物をした帰り道、ちょっとした口喧嘩をした。
普段喧嘩なんてしないのに、あの日の私達はいつもと何かが違っていたように思う。怒って先に帰ると言って、前を歩いていた姉を私は途中呼び止めた。姉が振り返った瞬間横から車が走ってきて姉は帰らぬ人となった。
あの時私が声をかけなければ、姉は死ぬことはなかったのに。なんで喧嘩なんてしたのだろう。仲が良いのが自慢だったのに。なんであの時呼び止めたりしたんだろう。
「さあ、行こう。その花束お姉ちゃんに渡そう」
「…………。」
足が重たい。体がだるい。十年前に来て以来だ。姉の墓を見る……のは。
「これ……何?」
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