ジャージャーのフォース

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 俺は大学を出てから細胞レベルで変貌した。それも大幅な改悪。  大学は無遅刻無欠席、フル単位取得、成績優秀。部活では大枚はたいて写真展を開き、自主制作の映画も撮った。スポーツ雑誌の撮影バイトを根気よく続けて技術も磨いた。何だったら果てしない充実感に苛まれてすらいた。清廉潔白、無味無臭、純粋無血の俺は、満を辞して大手の撮影スタジオや新聞社の採用募集に応募した。  結果、ただの地方四大卒の部活やバイトレベルのカメラマンなんて、この世には掃いて捨てるほどいて、丁寧に端に寄せられ、巨大な塵取りによって掬われていった。その辺から俺は自分の中に暗黒を感じた。  成れの果ては、コンビニの廃棄弁当にこっそりあやかりながら、SNSで請け負うゴシップ写真の撮影隊。幸いなことに動くものを収めるのには長けていた。夜の街を遊び回るアイドルの無防備な姿をいかに鮮明に押さえるか。そんなの容易い。百メートルを瞬く間に走り抜けるランナーを、何万枚と大学時代に撮り続けてきたから。  そして、ようやく撮れた大物芸能人の不倫現場の撮影データが仲間にかすめ取られたのをきっかけに、バカバカしくて唯一の食い扶持を自ら捨てた。  その頃だったか、ジャージャーも精神やられて高校教師を辞めたと聞いて、自分の不幸を薄めるために、適当な冷やかしの連絡を入れた。  こいつの返事は鬱陶しかった。《俺のことを思い出してくれてありがとう》に加えて、《フォースと共にあらんことを》なんて冗談なのかマジなのか、スターウォーズからの引用が添えられていた。  そんな病んだ奴を冷やかしたところで一つも笑えなかった。ただ、自分の矮小で腐った根性がフォーカスされただけだった。  その後、何の因果かフォースか分からないが、バイト時代の先輩に誘われて極小ながらも宣材写真を扱うスタジオでカメラマンとして雇われた。仕事はかなり不安定だが、ゴミ漁りみたいな生活をするよりはよっぽどマシに思えた。
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