家族秘話

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 十歳になる娘が私の前に来てこんな発言をしてくる。 「お父さんってお母さんとどうして結婚したの?」  急な質問に驚き、私は飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになる。 「どうしたんだ急に? なんで知りたいの?」 「今度、二分の一成人式ってのをやるの。それで、自分の名前の由来とかを調べてきてくださいって先生が言ってたから」 「それにお父さんとお母さんの出会った話は必要なさそうだけど?」 「だって今まで聞いたことないもん。教えてよ?」  娘に話をしてくれと迫られる。お母さんとの出会いを話すのは気恥ずかしく感じる。僕は娘をお母さんの方に送るため言葉巧みに誘導する。 「高校生の時にお母さんの方から話しかけてきたからな。お母さんから聞いたほうがいいんじゃないかな」  娘にその話をすると料理をしていたお母さんの方へと向かった。とりあえず娘からの追及を逃れて安堵する。 「お母さん。どうしてお父さんと結婚することになったの?」  キッチンとリビングの距離は近い。お母さんもさっきの話を聞いていたと思う。 「うーん。どうしてかな? よく覚えてないかな」 「えー。でもお父さんがお母さんの方から近づいてきたって言ってたよ。好きだったからじゃないの?」  どう答えるだろうと思い耳を傾ける。すると衝撃的な言葉が耳にとびこんできた。 「実は最初の方はお父さんのことそこまで好きではなかったのよね」  心外な言葉に驚く。一体どういうことだろうか。僕の記憶だとお母さんの方から話しかけてきて、そこから仲良くなっていったはずだけど。 「お母さん本当はね、お父さんの友達の春樹君って人が好きだったのよ」  今まで聞いたことのない話に呆然とする。春樹は僕の高校時代の親友だ。まさかの答えに驚きが隠せなかった。 「じゃあ、どうしてお父さんのこと好きになったの?」 「だってお父さん優しいんだもの。いつの間にか、お父さんのことが一番大切な人になってたの」  その言葉を聞いて心が落ち着いた。付き合う経緯に春樹がいるのは少々気に食わないが結果オーライというやつだろうか。 「茉莉(まつり)は好きな人いるの? まだいないかな?」  お母さんが茉莉に話しかける。茉莉は大きな声ではっきりと答えていた。 「私は好きな人いるもん。それにチューだってしたことあるんだから」 「え! 茉莉キスしたことあるの? 誰と?」  お母さんが驚いて聞き返す。茉莉は自分で言って恥ずかしくなったのか部屋に戻るため階段を勢いよくかけ登っていく。  僕は、茉莉に向かって大きな声で叫んでいた。 「茉莉。誰なんだその男は! どこのどいつだー」  茉莉から返事はない。僕はお母さんと顔を見合わせた。よくわからないが気まずい雰囲気が流れる。  まさか娘がキスまでしているとは。娘は自分の知らないところで大人への階段を登っていたなんて。心がひどく乱れている。  兎にも角にも誰なんだその男は。
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